2021 Fiscal Year Research-status Report
Emotions in Kant's Philosophy; From the Viewpoint of Critique of Judgement
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17K02177
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
竹山 重光 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60254520)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カント哲学 / 情動 / 『人倫の形而上学』 / 友情 / 愛情 / 尊敬 / 気分 / 『判断力批判』 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も、いわゆるコロナ禍により、研究以外の諸業務に膨大な労力と時間を割かねばならない一年間となった。そのなかでなんとか公表することができたのは、2021年8月に世に出た「友よ、友なんて、いない。―カント理解のためのノート―」(『紀要』第50巻、和歌山県立医科大学)である。これは『判断力批判』に直接関連するものではないが、非常勤講師として関西大学大学院で行なっているカント『人倫の形而上学』演習に由来し、なおかつ、カント哲学における情緒的なるもの(Die Affektiven)の研究の一環として起稿された論考である。ただし、遺憾ながら完結していない。 アリストテレス以来の伝統をもつ「友情」を、カントは「愛情」と「尊敬」との「最も緊密な結合」と定義する。愛情とはもちろん伝統的な概念であり、尊敬はカントにおいてきわめて重要な概念である。もちろん、両者とも明確に情緒的性格をもつ。本論考はこの二つの感情を『人倫の形而上学』のテキストに密着して分析・検討し、カント哲学における情動性の一端を示さんとした。 カントは愛情を「愉悦の愛情」と「好意の愛情」の二つに区分して行論を進めている。後者は「実践的」と形容されることもあり、主として行為的な次元にあるが、前者については、テクスト上の困難もあって明確に捉えることは難しい。本論考は、経験的性格をまぬかれ難い愉悦の愛情ではなく、人間の共同存在の快感情である気分としての愛情(隣人愛)をテクストから取り出し、それを「義務感受の情感的基礎概念」と読解することを提案した。これにより、『判断力批判』で論じられる「認識一般」へいたる調和的気分(Stimmung)との通底が確認される。また、情感的次元から実践的次元にわたる愛情の多層性も確認されるのである。友情はおそらく、多層性を内包したうえでの、実践的次元における愛情を構成要素としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
カント哲学と広く情緒的なものとを連関させた研究動向および個々の研究は、少なくとも海外においては、すでに成立し蓄積もされてきている。そうした成果を摂取しつつ努力してきたが、情動性という観点から『判断力批判』そのものを真正面から取り上げて論究した文章をなんらかの仕方で公にすることができなかった。これは、草稿段階のものがあるとはいえ、やはり、研究計画として重大な遅延といわざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
カントが『判断力批判』で「感情」をめぐって展開している諸議論をそれそのものとして、つまり芸術論や道徳との連関を括弧に入れて感情の哲学的研究として論究した先行研究は、実はいまだにそれほど多くない。これまでの文献探索を経て、このような事態をかなりの確信とともに主張できる。事態がこうである理由のひとつはおそらく、「感情」そのものの理解と位置づけに問題があるからだろう。したがって、今後の私の研究は、いまだ多くを数え上げることのできないそうした研究の不足を満たすものとして進められなければならない。 この目標のために、「個体性」あるいは「個体」との遭遇という契機を導入する。なぜならば、『判断力批判』の議論が実際に対象としている事柄は、「この~は…である」という判断、すなわち個体についての判断だからである。これは『純粋理性批判』と大きく、なおかつ決定的に異なる点である。そして、そもそも人間がもつ経験の原初的次元は個体経験だと考えられるからである。かてて加えて、人間の経験の原初的次元は感情もしくは情緒の点で無記ではないからである。
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Causes of Carryover |
いわゆる繰越金が生じた最も大きな理由は、コロナ禍による学会や研究会の対面開催中止、あるいは出張自粛要請などにより、旅費が支出できなかったことである。 繰越金の使用計画としては、旅費として執行可能な社会状況になればそのように用いるが、そうでなければ基本的に文献収集に充てるつもりである。現今の状況からすれば文献収集に充てることを主眼とするのがおそらく妥当であろう。
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Research Products
(2 results)