2022 Fiscal Year Annual Research Report
Emotions in Kant's Philosophy; From the Viewpoint of Critique of Judgement
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17K02177
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
竹山 重光 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60254520)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カント哲学 / 判断力 / 情動 / 個体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は情動(emotion)を鍵概念として『判断力批判』を考究してきた。考究を進めるにつれ問題として際立ってきたのが、個体あるいは個体性(Individuum od. Individualitaet)である。『判断力批判』は判断力を批判的分析の対象とし、反省的判断力は論理学用語でいう「特殊」を出発点として「普遍」に向かう能力であるから、これはある意味では当然の事態である。反省的判断力は現実的具体的な個体を、あるいは個体遭遇という個体性経験を、その働きないし動きの起点とする。現在でも、『判断力批判』を全体としてどのように受けとめるかは議論を呼ぶ問題といえるが、『判断力批判』が判断力を批判的分析の対象とするかぎり、芸術作品や有機体というよりむしろ個体・個体性が『判断力批判』の取り組む事柄であり、『判断力批判』を全体として理解するための最も適当な鍵概念なのである。 個体・個体性は、言語表現としては、たとえば「これ」のような指示詞をもって表現されうるだろう。もちろん、人間の経験あるいは認知はここで終わるのではない。個体・個体性は普遍あるいは概念との関係においてのみ成立し、その関係がなければたんに指示をすることができるのみである。けれどこのことは、個体・個体性がそれそのものとしては、『純粋理性批判』が論究したような「認識」ではなく、それとは別の成立様式をもつような、物(Ding)との遭遇だということも意味する。その成立様式が情動である。あるいは、物との先認識的な遭遇は感情として生起するのである。 公にされ、本研究との連関がある成果として、カントにおける友情(Freundschaft)概念を分析・検討した論文が勤務校の紀要に掲載されている。また、新進の日本人研究者が著した『判断力批判』研究書についての書評を書籍紹介の新聞から依頼されて執筆した。
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