2017 Fiscal Year Research-status Report
Transformation of Kantian Transcendental Philosophy by Means of "Empirically Defeasible A Priori"
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17K02186
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
千葉 清史 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 准教授 (60646090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 彰太郎 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (90801788)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ア・プリオリ / 超越論哲学 / 認識論 / 実践哲学 / カント/カント主義 / 国際学術交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「ア・プリオリ」概念ならびにア・プリオリな哲学の可能性に関する最近までの理論哲学・実践哲学の研究をフォローし、さらに、今後の研究の方向性を決定する基盤の設定を行った。 千葉は特に、今日の分析認識論におけるア・プリオリ概念研究の主導者であるL. BonJourならびにA. Casulloの研究ならびにそれに対する批判を扱った。ア・プリオリ概念そのものの規定についてのCasulloの詳細な研究は、BonJourのより射程の長い議論をより厳密な仕方で再構成することに資する。 田原は特に、実践哲学における現代カント主義の代表者であるO. O’Neill、Ch. Korsgaard、B. Hermanの研究を扱った。カント倫理学を代表するカントの著作『道徳形而上学の基礎づけ』が道徳から経験的なものを排除することを目指し、ア・プリオリな道徳の確立を試みているのに対して、彼女たちが提案するカント的理論は経験的なものを組み込んでいる。その一方で、彼女たちの研究では、ア・プリオリ概念のもとで語られうる道徳的原理の無条件性や普遍性がカント的要素として重視されている。この点を明らかにすることによって、経験的なものを組み込みつつも、いかにして道徳的原理の無条件性・普遍性が保持されうるのかということが、本研究課題が現代カント主義に関して問うべき問いであることが明瞭になった。 本年度には、千葉がアイルランドのTrinity College Dublinへの短期研究滞在を行い、研究協力者Martin Stickerとの意見交換を行った。また、平成30年4月9日には、千葉・田原両者の今年度の研究成果を突き合わせて相互に検討する研究会を、早稲田大学社会科学部にて開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
千葉・田原両者の研究とも、現在のところ予定通りに進行している。 千葉に関しては、現代分析認識論におけるア・プリオリ概念・ア・プリオリな哲学をめぐる今日の議論のフォローに関して進展が見られた。L. BonJourの着想はさらに発展させるに値するとの見込みが得られたが、とりわけその根本概念である「合理的洞察(rational insight)」の諸問題も同時に明瞭になった。これについては、「徹底的経験主義(radical empiricism)」からのア・プリオリ概念批判の検討とも合わせて、今後の検討課題となった。また、田原との共同研究により、理論哲学と実践哲学では、ア・プリオリ概念をめぐる取り扱いに関してかなりの相違があることがわかった。理論哲学上の考察で得られた知見を実践哲学に適用する際には、特別の考察が必要であり、これは今後の課題となった。 田原に関しては、実践哲学における現代カント主義の解明という点において進展があった。実践哲学における現代カント主義者がどの点においてカントの所説を守るべきものとして受け継ぎ、どの点においてそれを修正しようとしているのかが曖昧であったが、ア・プリオリという切り口から考察することによって、この点を次のように明確化することができた。すなわち、道徳的原理の無条件性と普遍性とをカントから引き継ぎつつも、カントの学説のなかに見られる「経験からの乖離」を現代カント主義者は修正しようと試みている。これを明確化できたことによって、ア・プリオリ概念のもとで語られうる無条件性と普遍性とを、経験的なものを取り入れつつも、いかにして維持することができるのか、という問題を取り出すことに成功した。さらに、実践哲学に関して今年度は主に英語圏の現代カント主義を扱ったが、ドイツ語圏における現代カント主義の研究が今後取り組むべき課題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
千葉:現代の分析認識論における「ア・プリオリ」概念研究のフォローと続けつつ、今までの成果を、カント的超越論哲学に適用することを試みる。まずは、田原の研究成果も活かしつつ、元来のカント的問題設定ならびにそれが目指す哲学的課題の諸要素を明瞭化し、何が今日追及に値し、何が放棄されてもよいかを考察する。この課題のために、今期は、特にカント研究におけるア・プリオリ概念の取り扱いについての考察が主要な課題となる。「ア・プリオリ」の関連概念である「必然性」「分析性」「確実性」が、今日のカント研究・カント主義的哲学においてどのように扱われているのかが検討されることになろう。その上で、分析認識論的「ア・プリオリ」概念研究を、特に「認識・倫理の本質的歴史性を勘案し得る」超越論哲学の課題に適合させるために必要な概念的基盤を築く課題にも着手する。 田原:経験的なものを取り入れつつも、いかにして道徳的原理の無条件性と普遍性とを維持しうるのかという問題を、個々の現代カント主義者の所論に即しながら考察する。この考察に際しては、現代カント主義者のなかでもとくに大胆に経験的なものを取り入れているB.Hermanの一連の文献を重視することになるはずである。さらに、フランクフルト学派第三世代に属し、カントからも大きな影響を受けているドイツ人哲学者R. Forstの研究も扱うことによって、考察の対象をドイツ語圏のカント主義へも広げることになる。
*平成30年度には、「ア・プリオリ」概念をめぐる問題圏を考察している日本人研究者を招待しての数回の研究会を実施する予定である。また、千葉がブリストル大学(イギリス)に短期海外研究滞在を行い、研究協力者Martin Stickerとの共同研究を進める。
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Causes of Carryover |
田原に関して、157,181円の次年度繰越額が生じた。その理由は、以下の通りである。田原は、4月に早稲田大学助教に着任、さらに10月に茨城大学准教授に着任した。その双方において大学支給の研究費一年分を利用することができた。本研究課題採用当時は、10月の茨城大学への着任は未定であったゆえに、大学支給の研究費が予定していた額を上回った。その差額分を本研究課題の遂行にも使用することによって、次年度繰越金が生じた。2018年度は、この繰越金を用い、現代カント主義関連の文献を購入する予定である。
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