2019 Fiscal Year Research-status Report
Transformation of Kantian Transcendental Philosophy by Means of "Empirically Defeasible A Priori"
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17K02186
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
千葉 清史 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60646090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 彰太郎 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (90801788)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ア・プリオリ / 認識論 / 倫理学 / カント・カント主義 / 超越論哲学 / 分析哲学 / 国際学術交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
[千葉] 2018年度までの研究成果を総括し、L. BonJourによる分析認識論における「ア・プリオリ」研究がカントの超越論哲学のプログラムにどのように寄与しうるか、ということを論じる講演を2019年5月にドイツのボン大学で行なった(招聘講演)。8月には、カントの超越論哲学を反応依存性理論として理解する可能性についての研究発表をUK Kant Societyの2019年度大会で行なった。それと並行して、カント的超越論哲学の方法論的基礎の問題に取り組んだ。その成果の一端は2019年11月に開催された日本カント協会大会で発表された。また、さらなる考察の成果を、2021年公刊予定の『現代カント研究』第15巻に投稿する予定である。 [田原]「ア・プリオリ」概念の特徴である普遍性と必然性とが、倫理学においてどのように説明・正当化されうるかという問題設定、ならびに、R. Forstが超越論的論証によって人権の普遍性を擁護しているという研究成果を昨年度から引き継ぎ、さらにそれを以下のように展開した。Forstが人権を正当化する論証とCh. Korsgaardが道徳的規範を正当化する論証には、両者とも部分的に超越論的論証が含まれることを指摘し、この論証が現代カント主義的倫理学において特徴的方法となっていることを明らかにした。この研究ではとくに、この両者の超越論的論証による普遍性の正当化に焦点を当て、その正当化においては、カント倫理学における道徳法則の普遍性の正当化とは異なり、経験からの独立が要求されないという点を重点的に検討した。 また、今までの研究成果を公開し、意見交換を行うべく、2020年2月1日には鵜沢和彦氏、辻麻衣子氏、中野裕考氏を招聘した公開講演会「超越論的演繹」を、同2月28日には蝶名林亮氏を招聘した公開講演会「倫理におけるア・プリオリ」を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
認識のア・プリオリな構造を探求するカント的超越論哲学に歴史性の契機を取り入れる道を模索することが、当初考えていた本研究の目標の一つであり、分析認識論における「経験的改訂を容れるア・プリオリ」はそのための着手点を与えるはずのものであった。しかし、これまでの千葉の研究の結果、「経験的改訂を容れるア・プリオリ」は当初の目標には完全には適合しないことがわかってきた。とはいえ、それが歴史性に関わる含意を全く持たないというわけではない。「経験的改訂を容れるア・プリオリ」は、我々がア・プリオリに知られることがらがそのものが歴史的である、という帰結を持つものではないにせよ、それについての我々の認識が歴史的に変転しうる、という可能性を拓く。 そこで、当初の計画を若干変更して、こうした限定的な意味での歴史性を受け入れるものとして、カント的超越論哲学を組み替える、という目標に変更することにした。千葉は、この目標のために(C.S. Jenkinsに代表される)今日の自然主義的「ア・プリオリ」論が有意義となるのではないか、との着想を得、その考察に着手した。(この研究は2020年度も継続する。) 田原は、2018年度の成果によってア・プリオリと超越論的論証とを関連付けるという着想を得たゆえに、2019年度の研究においてForstとKorsgaardの議論をまとめて論じることが可能になった。この着想に基づき研究をスムースに進展させるため、当初の予定を若干変更し、2019年度にこの両者をまとめて論じる際の観点を2018年度から変更・拡張せずに、普遍性に限定した。その結果として、当初の予定では2019年度に集中的に研究する予定であったア・プリオリのもう一つの特徴である必然性について、継続的研究が必要となった。
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Strategy for Future Research Activity |
千葉・田原による分析認識論・実践哲学における「ア・プリオリ」概念研究の成果を総合し、本研究の最終目標:(ア・プリオリに知られることがらについての我々の認識は歴史的に変転しうる、という意味での)歴史性を取り入れることができるようなカント的超越論哲学の枠組みの構築を試みる。 千葉は、『純粋理性批判』におけるカントの哲学的考察の方法論的基礎についての研究を継続しつつ、今日の自然主義者らによる「ア・プリオリ」研究を検討していく。諸個別科学による経験的探究の成果を超越論哲学的考察に取り込むこと(そしてそれによって超越論哲学そのものを否定するのではないこと)はいかにして可能であるのか、ということを解明することが最も重要な課題となることであろう。 田原は、ForstとKorsgaardの研究を引き続き行う。2020年度には、「目的によって正当化されない当為(Sollen, ought)」というカント的意味での必然性の説明・正当化を、この両者がどのように継承しているのかを明らかにすることを目指す。その後、この必然性についての研究を、前年度までの普遍性についての研究と統合し、それをカント的「ア・プリオリな道徳法則」の現代的継承のひとつの展開としてまとめる。このまとめの際には、この両者による普遍性、必然性の説明・正当化を「経験からの独立性/経験への依存性」という観点から検討することが重要な課題となるはずである。 また、本年度には、2019年度に予定されていたが2020年4月に延期され、また新型コロナ感染リスク回避のためにさらに延期となった、Martin Sticker氏(ブリストル大学)ならびにNicholas Stang氏(トロント)大学を招聘した公開シンポジウムを開催し、また、国内研究者を招聘しての研究会も数回開催する予定である。
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Causes of Carryover |
ア・プリオリ性に歴史性を取り入れる研究において、当初の予定になかった、自然主義の立場からのア・プリオリ研究を扱う必要が出てきた。また、海外研究者Martin Sticker氏とNicholas Stang氏に招聘講演の依頼をしたところ、2020年内であれば来日可能との返答を受けた。(本来、4月に行われる予定であったが、これは新型コロナ感染リスク回避のため中止となった。現在日程調整中である。)自然主義的ア・プリオリ研究ならびに国際招聘講演会の実施により研究をさらに充実させるため、期間延長を申請した。
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Research Products
(5 results)