2020 Fiscal Year Research-status Report
Transformation of Kantian Transcendental Philosophy by Means of "Empirically Defeasible A Priori"
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17K02186
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
千葉 清史 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60646090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 彰太郎 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (90801788)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ア・プリオリ / 認識論 / 倫理学 / カント・カント主義 / 超越論哲学 / 分析哲学 / 国際学術交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
[千葉] 前年度の研究成果を発展させ、イマヌエル・カント『純粋理性批判』の方法論的基礎の問題に取り組む論文を執筆した。その主要主張は次のものである:カント自身が意図したように、『純粋理性批判』の考察がア・プリオリなものであるべきならば、その諸主張のすべてがいわゆる「超越論的論証」のような仕方で正当化される、と考えられるわけにはいかない。いくつかの基礎的主張は、Laurence BonJourが「合理的洞察rational intuition」と呼んだようなものによって直接に知られると想定される必要がある。この論文は、2021年末頃公刊予定の『現代カント研究』第15巻に掲載されることが決定されている。 [田原] 本研究は、カント的倫理学に歴史性(経験的なもの)を取り込む二つの方策を区別して研究を進めている。一つの方策は道徳法則の古典的意味でのア・プリオリ性の再検討を含むラディカルな方策であり、前々年度まではとくにこの方策に重きを置いて研究を進めてきた。前年度7月に千葉と田原で行ったオンライン上での研究打ち合わせのなかで、もうひとつの方策である保守的方策、すなわち、古典的「ア・プリオリ」概念は保持しつつも、そうした道徳法則の実際の適用の手続きに経験的なものをつけ加えることで、ア・プリオリな道徳法則と歴史的に変転する道徳の現実との折り合いをつけようとする方策についての研究を拡充する必要性が確認された。前年度は、この打ち合わせでの申し合わせに基づき、とくにカント倫理学における普遍化可能性に焦点を合わせこの方策の研究を行った。 なお、予定されていた海外研究者招聘ならびに公開研究会は、新型コロナウィルス感染拡大のために実施できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、新型コロナウィルス感染拡大のあおりを受け、研究代表者の千葉・分担者の田原とも、教務・学務で忙殺され、本申請研究の進捗は残念ながら捗々しくはなかった。 千葉は、「研究実績概要」で示した論文の執筆に加え、C. S. Jenkinsに代表される今日の自然主義的「ア・プリオリ」論の検討を進め、これがカント的枠組みにとっても有効たりうる、との見込みを得た。これについての検討は2021年度も継続する。 田原は、とくにカント倫理学における普遍化可能性を主題とする二次文献の読解を進めた。普遍化可能性についてはこれまでに多くの二次文献が出版されているが、ア・プリオリな道徳法則と歴史的に変転する道徳の現実といった観点から普遍化可能性を主題化しているものはほとんどなく、普遍化可能性研究においても本研究の切り口がオリジナリティをもつことが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
千葉・田原両名による分析認識論・実践哲学における「ア・プリオリ」概念研究の成果を総合し、本研究の最終目標:(ア・プリオリに知られることがらについての我々の認識は歴史的に変転しうる、という意味での)歴史性を取り入れることができるようなカント的超越論哲学の枠組みの構築を試みる。 千葉は、今日の自然主義的な「ア・プリオリ」論の検討により、当該の課題に答えることを試みる。超越論哲学の構想そのものを廃棄することなく、そのうちに個別諸科学による経験的探究の成果を取り込むことはいかにして可能であるか、ということを解明することが最も重要な課題となることであろう。 田原は、前々年度まで重点的に行ってきたラディカルな方策と前年度来重点的に行ってきた保守的方策(この二つの方策については上述の「研究実績の概要」を参照)の研究成果をまとめ、当該の課題に答えることを試みる。その際には、道徳法則の経験からの独立を主張しないラディカルな方策に関しては、どのようにして道徳法則の普遍性と定言性を確保するかということが、道徳法則の経験からの独立を維持する保守的方策に関しては、その道徳法則に基づく判定を下すに至るプロセスのなかに、どのように経験的なものが取り込まれるかを解明することが、主たる課題になるであろう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大のため、予定されていた海外研究者招聘ならびに公開研究会開催ができなかった。そのため、2021年度に残額を延長することにした。
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