2017 Fiscal Year Research-status Report
カント義務論における「自己自身に対する義務」の研究
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17K02187
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
御子柴 善之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20339625)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カント / 道徳性 / 世界市民主義 / 自己自身に対する義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の中心的成果は、予定通り、第11回日独倫理学コロキウムを開催したことである。開催日は、2017年9月5日(デュースブルク=エッセン大学)、同7日(ゲーテ大学/フランクフルト)である。「グローバル化時代におけるナショナリズムと世界市民主義」というテーマで開催されたコロキウムにおいて、「道徳性と世界市民主義の関係」という題目の研究発表を行った。ドイツ語による発表原稿をもとに、日本語で論文「『道徳性』概念の再検討-カントの世界市民主義との関係において-」を執筆し、早稲田大学大学院文学研究科紀要第63輯に発表した。なお、このコロキウムでは、全部で11名の研究発表が行われ、発表者の国籍も四か国となり、従来よりも大規模な開催となった。コロキウムの内容はすでに冊子(Akten des 11. deutsch-japanischen Ethik-Kolloquiums)にまとめ、関係者などに配布している。 当該論文では、カント倫理学の中心概念である「道徳性」を再検討した。従来、「適法性」概念の対義語として扱われてきた「道徳性」概念を、そうした観点から解放することで、広義の「道徳性」概念を見出した。それは上級欲求能力の自己規定における自由をメルクマールとするものである。さらに、そうした「道徳性」概念に基づくことで、ひとはナショナリズムから自らを解放し、国境を越えた世界市民主義的活動に参画できることをも主張した。その後、この研究論文を発展させ、招待講演「道徳性と正義の問題」(名古屋工業大学)と招待講演「カントの道徳的世界市民主義」(大阪大学)を行った。 現在は、当初の予定に従って、カントの「自己自身に対する」義務の概念を再検討すべく、プーフェンドルフやハチソンの所説とカントのそれとの差異を踏まえた論文を執筆中である。この論文は2018年秋に発表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「自己自身に対する義務」概念についてカント自身がどのように論じているかを包括的に検討する作業は、現在進行中である。また、当該概念について、カントに先行する哲学者、たとえば、プーフェンドルフ、ハチソン、バウムガルテンがどのように論じているかも、現在検討中である。研究計画の初年度ゆえに、研究成果が明らかになるのは、まだまだこれからであると言わざるを得ない。また、大学院生を組織化して研究グループを形成することを企図していたが、2017年度はそれを実現することができなかった。それは研究代表者が本務校大学院の教務主任の仕事に大きく時間をとられたことに由来する。 それでも、「研究実績の概要」欄に記入したとおり、第11回日独倫理学コロキウムを、従来以上の規模で開催することに成功し、研究交流とカント哲学理解の深化に資することができたという点では、進捗状況に問題はないと言ってよいだろう。また、コロキウムにおける研究発表に基づいて研究論文を発表することができ、それに基づいた招待講演を二つ行うことができたのも、成果と言ってよい。 現在執筆中の論文は、この初年度の研究成果をまとめるものとなり、この論文の完成をもって、本研究の進捗状況を順調であると評価することができるであろう。また、2018年度の研究に不可欠な準備作業を進めることもできている。それは『純粋理性批判』や『プロレゴーメナ』の詳細な再検討である。これによって、道徳的自己認識という「自己自身に対する義務」の中心課題を論じる準備が行われつつある。 以上の諸点に基づいて、研究の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究期間は残り三年間である。2018年度にもそれ以降にも、2017年度と同様に日独倫理学コロキウムを開催し、研究交流を維持し、カント的な義務倫理学の理解に資する場を提供し続けたい。 また、2018年度は研究代表者の研究室に所属している大学院生を組織化し、「自己自身に対する研究」という近代的観念の研究を加速化させたい。現在、博士後期課程に3名、修士課程に2名、この研究に参加できそうな学生がいる。 2018年度は、「自己自身に対する義務」における第一の義務である「道徳的自己認識」の問題を取り上げる。カントは、自己意識は可能だが自己認識は不可能である、という有名な主張を行った哲学者であるが、他方で、道徳的自己認識の重要性を主張している。それがいかにして可能になるのかを論じることで、従来のカント倫理学理解に変更をもたらすことができるだろう。 2019年度以降は、「自己自身に対する義務」概念の概念史研究をまとめることと、この概念の現代的応用の可能性を探ることに費やす予定である。前者では、プーフェンドルフとの関係に注目し、後者では、環境倫理学における「未来世代に対する倫理」への応用可能性を探求することになる。 以上の研究期間において、できることならドイツから研究者を日本に招いて研究会を開催したい。これは先方あってのことなので、容易に実現するかどうか分からないが、今回の補助金をもって、日本の研究状況に資するためのひとつの方策であると考えている。
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Causes of Carryover |
11. Deutsch-japanisches Ethik-Kolloquium(第11回日独倫理学コロキウム)を開催するに際してドイツ連邦共和国に滞在するための渡航費・滞在費を計上していたが、それらの大半を学内の出張費・海外出張費で賄うことができたので、その分の費用が「次年度使用額」となった。これらは、2019年度に海外から研究者を招いて講演会を開催するための費用として残しておくことを予定している。したがって、けっして無駄にはならない。 他方、2017年度は、時間の都合で大学院生を研究補助者として雇用することができなかった。2018年度にはそれを実現する予定なので、同年度の使用額は予定の額に近づくと予想される。
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Remarks |
11. Deutsch-japanisches Ethik-Kolloquium(第11回日独倫理学コロキウム)を「グローバル化時代のナショナリズムと世界市民主義」という表題の下、ドイツのデュースブルク=エッセン大学ならびにゲーテ大学(フランクフルト)で開催した。
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