2018 Fiscal Year Research-status Report
カント義務論における「自己自身に対する義務」の研究
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17K02187
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
御子柴 善之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20339625)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カント / 自己自身に対する義務 / 道徳的自己認識 / 世界市民主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の中心的成果は、第12回日独倫理学コロキウムの開催、二本の研究論文、三つの研究発表である。まず、日独倫理学コロキウムを2018年9月5日(ゲーテ大学、フランクフルト)と9月7日(デュースブルク=エッセン大学)の二日間にわたって開催した。研究代表者は、9月7日に「凡庸なナショナリズムに対峙した超感性的自然の倫理学(Die Ethik der uebersinnlichen Natur angesichts des banalen Nationalismus)」という表題で研究発表を行った。このコロキウムの前後には準備会と反省会を、さらに第13回コロキウム準備会を開催した。研究代表者の発表は、題名を、Kants Ethik der “uebersinnlichen Natur” als Grundlage einer Kritik des heutigen Nationalismusへと変更して、『哲学世界』第41号に論文として掲載した。 次に、カントの「自己自身に対する義務」観念を歴史的に遡る研究を遂行し、その成果を論文にして発表した。『思想』第1135号(2018年11月)に掲載された「カント義務論と『自己自身に対する義務』の問題」である。続いて、「自己自身に対する義務」における「自己認識」の問題を検討した。この研究の成果は、2019年1月に「カント義務論と道徳的自己認識の問題」と題して発表した(京都ヘーゲル読書会)。研究発表としては、2018年11月に開催された日本カント協会の学会において、「グローバル化の時代における規範に関する三極対立構造」というポスター発表も行った(舟場保之、寺田俊郎の両氏とともに)。 現在は、第12回日独倫理学コロキウムの内容を冊子として印刷中である。これは2019年5月中には完成する。また、第13回コロキウムの企画も進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は計画に従って順調に進捗している。すでに、カントの「自己自身に対する義務」観念を歴史的に遡る研究は、その成果を論文として発表した。また、カント哲学における道徳的「自己認識」の問題については口頭発表を行った。その内容は論文化して2019年度中に発表する予定である。この問題を論じるには、それに先立って『純粋理性批判』や『プロレゴーメナ』における認識論の検討が必要だが、その作業を介して、2018年9月に単著『カント哲学の核心-『プロレゴーメナ』から読み解く』(NHK出版)を刊行した。また、本研究課題の最後のテーマである環境倫理への応用についても、現在準備中である。特に、「人新世」という近年とみに語られることの多くなった概念を検討しつつ、この概念が従来の環境倫理をどのように揺るがすか、またそれに対してカントの義務論がどのように有効に機能するかを検討している。また、本研究が順調に進捗していることの顕著なできごととして、日独倫理学コロキウムの開催を継続し、すでに2019年度の開催も予定されていることが挙げられる。 さて、本研究の進捗状況に若干不足している部分として、次の二点が挙げられる。第一に、大学院生を組織しての研究態勢の構築である。2018年度もこの点を実現できなかった。しかし2019年開始と同時に、博士後期課程在籍者1名をリサーチ・アシスタントととして雇用し、学内の他の研究費で同様に雇用している他の1名とともに、研究推進のための態勢を整えることができた。第二に、海外の研究者を日本に招いて、講演会・研究会を開催することである。本来、2019年度にこれを実現する予定だったが、念頭においていた研究者のうち1名について依頼ができないことが判明し、他の1名が多忙につき来日時期を工夫しなくてはならないことが判明した。この件は引き続き検討し、研究期間中に実現できるように努力する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究期間は残すところ二年である。2019年度はもちろん2020年度においても日独倫理学コロキウムを開催することを、本研究の一つの柱としたい。また、おそらくは2020年度に入るかと予想されるが、ドイツからカント哲学研究者を招聘し、研究代表者の本務校などで講演会を開催したい。そのため交渉を継続的に行う予定である。 さて、カント義務論における「自己自身に対する義務」概念については、その内容と背景を検討したので、今後は、それに引き続いて、この概念を現代社会の問題状況に活かす方途を考えたい。そのための前提として、複数の哲学者(たとえば、J・S・ミル)がこの概念を否定したことを踏まえ、そうした否定的な見解がどのような思想に基づいているかを検討したい。そうした思想に対する反批判を実現することでこそ、カントの所説が生きてくるからである。次に、規範倫理学における「義務論」について、その内容を明確にしたい。現代の規範倫理学が「義務論」と名指す内容は、カント倫理学と同一視されることが多いが、そこにさまざまな誤解も入り込んでいるように見受けられる。カントと現代義務論とのあいだに位置する哲学者、たとえば、ロスやダーウォルの思想を検討することが必要である。最後に、カント義務論が環境倫理の根拠づけにおいて、他の規範倫理学よりも有効であることを明らかにしたい。特に、地球温暖化問題のようなグローバルな問題において、「自己自身」に定位する倫理学がどのように有効であるかを明らかにしたい。そのためには、現代の環境倫理学が抱えている問題を再確認するとともに、「人新世」のようなキーワードをも研究に取り込むための努力を続ける予定である。 このように多方面に展開する研究において、リサーチ・アシスタントの助力は不可欠である。2019年度に雇用した大学院生とともに、研究をさらに前進させる予定である。
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Causes of Carryover |
当初、予算として第12回日独倫理学コロキウムを開催するための渡航費用を計上していたが、それは研究代表者の本務校の海外研究発表補助費などから支出することができた。早期に航空券を購入したがゆえに、渡航費を安価に抑えることができたからである。その分の研究費が「次年度使用額」になった。これは2017年度も同様なので、現在の「次年度使用額」は、この事情が二年分累積していることになる。この累積分は、2019年度に雇用したリサーチ・アシスタントが働く210時間(×2,000円)として支出する予定である。これによって、本研究の活動をさらに推進することが可能になる。また、2018年度は原稿の集まりが遅かったがゆえに、第12回コロキウムの原稿集を作成することができなかった。その分の費用も、「次年度使用額」となった。すでに原稿は集まっているので、2019年度の5月にはそれを冊子にする予定である。
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