2019 Fiscal Year Research-status Report
カント義務論における「自己自身に対する義務」の研究
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17K02187
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
御子柴 善之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20339625)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自己自身に対する義務 / 道徳的自己認識 / 世界市民主義 / 地球環境問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の主たる成果は、2019年9月5日(エッセン大学)と9月6日(ゲーテ大学・フランクフルト)で開催された、第13回日独倫理学コロキウム(Pluralismus und Universalismus in der globalisierten Welt:グローバル化した世界における多元主義と普遍主義)を開催し、そこでDie japanischen Umweltgedanken angesichts des Begriffs des Anthropozaens(人新世概念に直面した日本の環境思想)と題する研究発表を行ったことである。この研究発表は、本研究の最終年度においてカントの「自己自身に対する義務」概念を用いて、地球環境問題の倫理を根拠づけるための第一歩となった。同時に、「人新世」という概念の登場によって、日本で人口に膾炙している「人間と自然との関係を守る」ことが環境保護である、という言い方の限界も明らかになったことを指摘した。当該のコロキウムにおいては、日本人研究者三名とドイツ人研究者・学生が集まり、熱心が議論が展開された。 同年度には、さらに論文「カント義務論と道徳的自己認識の問題」と題する論文を執筆し、それを早稲田大学大学院文学研究科紀要(第65輯)に発表した。この論文は前年度の研究発表に基づくものだが、論文化する際に加筆することによって、「自己自身に対する義務」の中心に位置づく「自己認識」の内実を明らかにすることができた。そこでは悟性を中心とする認識が、理論的認識においては悟性と感性との関係において、道徳的認識においては悟性と理性との関係において成立することを指摘するとともに、カント義務論のける道徳的自己認識の意義を三つ取り出した。それは、自己知における謙抑、自己の途上性の認識、他者関係の再発見、である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の研究そのものは「順調」に進行している。カントの「自己自身に対する義務」に対して、その内実を探り、歴史的背景を探り、その自己認識との関係も論じることができたからである。 しかしながら、一点、残念なことがある。それは2020年4月にドイツ人研究者、ハイナー・クレメ氏を日本に招聘し、カント義務論にかんする研究会・講演会を開催する予定だったにもかかわらず、それが新型コロナウィルス蔓延の影響を受け、実現不可能になったことである。すでに航空券も購入し、ホテルも予約し、クレメ教授の発表原稿の日本語訳も準備していたにもかかわらず、突然の感染症蔓延により、これらをすべてキャンセルせざるをえなくなった。この事態により、本研究計画が含んでいた海外の研究者を招聘して研究会・講演会を開催するという企画が実現不可能になった。2020年度においても、同じ感染症の影響を免れることができないからである。 他方、2019年度には博士後期課程の大学院生を一人、リサーチアシスタントとして雇用し、地球環境問題や人新世にかんする論文を収集することができた。これは本研究を前進させるにあたって資するところが大きかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、2020年度を最終年度とする。したがって、本研究計画全体の中で予定してきた企画で、なお実現していない部分を遂行しなければならない。しかし、困難な企画が二つある。第一に、ドイツ人研究者を招聘して日本で研究会・講演会を開催したいが、それは困難である。そのためには早々に新型コロナウイルス感染症が終息しなければならないが、現在、それを見通すことができないからである。第二に、第14回日独倫理学コロキウムをドイツで開催するのも、同じ理由で困難である。 そこで、今後の研究推進においては、次の三点を中心に据えることにしたい。第一に、「自己自身に対する義務」を基軸としたカント義務論を環境倫理と接続すること。これは2019年度に開始した研究の継続である。第二に、2019年に開催した第13回日独倫理学コロキウムの報告書の完成。これは、ドイツ参加者から原稿が届かずに停滞しているものだが、それを入手し、完成させたい。第三に、「自己自身に対する義務」を否定しているJ・S・ミルの『自由論』を再検討し、カントとミルとの視点の相違を明らかにしたい。 なお、今年度の研究の全体を貫くテーマとして、「義務」と「責任」との関係を明らかにすることを試みたい。一般に、「義務」は義務論の、「責任」はケア論のテーマとして論じられ、双方は互いに還元できないあるいは還元してはいけないものとされている。他方、環境問題に対しては、自然環境に対する「ケア的関係」の重要性が語られる。そこで、本研究で地球環境問題を義務論的に論じるにあたり、ケア論の長所を取り込む工夫ができないかどうかを検討したい。 以上の全体をもって、2020年度に本研究を適切に完了したい。
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Causes of Carryover |
2019年度にドイツ人研究者を招聘して日本で研究会・講演会を開催する予定だったが、先方の都合により、それを2020年4月に変更した。しかし、2020年4月の来日も新型コロナウィルス感染症蔓延のために不可能になった。そのために準備した資金が残っている。 他方、第13回日独倫理学コロキウムのためのドイツ行きについては、大学から支給される海外研究発表のための渡航費を使用することができたため、その資金も残った。 2020年度は、ウィルス蔓延の終息を待って、キャンパスにおける研究活動を再開することになるが、リサーチアシスタントを雇用し、多くの資料を収集・整理することに努める。また、未完成に留まっている第13回日独倫理学コロキウムの成果集を完成するために、研究費を使用する。
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