2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02188
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
藤本 一勇 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70318731)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 脱構築 / 技術論 / 遠隔コミュニケーション / メディア / 現前の形而上学 / 宗教 / 存在論 |
Outline of Annual Research Achievements |
デリダの技術存在論の基盤を解明するため、1960年代から80年代に展開された、テクスト、エクリチュール、痕跡、差延、散種といった根本諸概念を、技術と存在の観点から研究した。従来、デリダのこれらの概念は、単に言語や文献の分野に限定されたものとして扱われてきたが、本研究ではそれにとどまらず、遠隔交流と隔絶というデリダの存在論的テレテクノロジーの視野から、物質間の交流や生物学的交流までをも含む、存在全般における巨大な差延構造にかかわる概念として理解可能であるし、そうすべきであることを明らかにした。デリダがテクストやエクリチュールを物質や生物の「比喩」(もはや単なる比喩ではない)で記述する傾向をもつことはその証拠といえるが、その射程や意味を哲学史や現代先端技術との関連において探究にした。また、1980年代以降の、いわゆる「倫理的ー政治的転回」以後のデリダのテクストには、メディアや遠隔コミュニケーションを直接論じる機会が増えていくが、その理由を、同時代の政治的・経済的・軍事的権力構造におけるテクノロジー強化という状況的問題と、さらにその根底にある人間の直接性への形而上学的欲望(「現前性の形而上学」)のますますの肥大化という問題のうちに探った。その結果、デリダが、技術と神的な力、宗教との関係について深い洞察を持ち、技術という、一見世俗的・中立的と見えるもののなかに、既存宗教の代補物となる新たな「宗教」を察知し、それを脱構築する道を模索していたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度における達成目標であった、デリダにおける技術と存在との本質的な関係の解明について、概ね達成できたと考える。プラトン・アリストテレスからデカルト、カント、ヘーゲル、ハイデガーに至る技術アレルギーの哲学的伝統を、デリダが危険視し批判する、その理由と基本構造を解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、デリダの文献(特に1980年代以後の文献)を精査し、初年度に明らかにしたデリダにおける技術存在論の基本構造が、どのように現代における最先端テクノロジーのもたらす諸課題と絡み合い、それらの諸課題にデリダの脱構築からどのような介入が可能であるかを探っていく。
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Causes of Carryover |
2017年度は、研究代表者が特別研究期間を利用してアメリカのコロンビア大学にて訪問研究者として研究をおこなった。外国での資料収集に意外と手間取り、また日本への郵送などの面でも様々な困難があり、思うように資料を収集できなかった。国際シンポジウム等の開催によって予算を消化するという予定も、アメリカに在住したことによって機会を逸した。
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