2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02188
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
藤本 一勇 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70318731)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 哲学 / 現代思想 / 脱構築 / 先端テクノロジー / メディア論 / 亡霊性 / 精神 / 唯物論 |
Outline of Annual Research Achievements |
デリダの技術存在論をメディア論との関係で研究した。デリダのテクスト、エクリチュール、痕跡、差延、散種といった諸概念は、マクルーハンの『メディア論』でいう「人間の能力の拡張」、メディアによる時空の超越、その外在化と内在化の循環関係の基礎構造と重なる部分が多い。しかしマクルーハンはメディアの拡張力を、インターネット網によるグローバル・ヴィレッジの成立、そこから生まれる地球大の「人類精神」というように、デリダから見れば「現前の形而上学」の完成とみなすのに対して、デリダはその「精神」性に孕まれる「亡霊」性、「幽霊」性を抉り出し、メディア全般が構造的に回避・解消することのできない「差延」構造を主張し、新たなデジタル・ヘーゲル主義(インターネットやビッグ・データによる「絶対知」の達成)を批判する視座を提出しえているということを明らかにした。さらに、こうしたデリダにおける「亡霊性」を軸にしたメディア理論の脱構築が、後年の彼の「来たるべきデモクラシー」や「歓待」といった政治的・具体的な主張の土台を構築していることを解明した。1980年代以降のいわゆる「宗教の回帰」の問題についても、デリダは、技術と亡霊性=精神性との関係から鋭い分析・批判をおこなっており、同時代の政治的・経済的・軍事的権力構造におけるテクノロジー強化という状況的問題を、さらにその根底にある人間の直接性への形而上学的欲望(「現前性の形而上学」)の肥大化のうちに見ているということを探った。その結果、デリダが、技術と神的な力、宗教との関係について深い洞察を持ち、技術という世俗的・中立的な新宗教(宗教の代補物)を脱構築する道を模索していたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
技術(情報・メディア)がもつ根源的な亡霊性を、デリダが生命存在、社会存在の本質的な構造として思考し、脱構築的に批判・発展させていることを解明できたと考える。プラトン・アリストテレスからデカルト、カント、ヘーゲル、ハイデガー、そしてマクルーハン、レイ・カーツワイルにまで至る、技術アレルギーと技術礼賛の狭間で、その両者の結託構造をデリダが明らかにし、その乗り越えを試みていること、その乗り越えの可能性の土台と基本構造を解明するところまで進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、デリダの文献(特に1980年代以後の文献)を精査し、デリダにおける技術存在論の基本構造が、どのように現代における最先端テクノロジーのもたらす諸課題に反映し、それらの諸課題にデリダの脱構築からどのような介入が可能であるかを探っていく。
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Causes of Carryover |
課題研究の遂行上、文献収集の範囲が広がってきており(特に科学技術論)、最終年度の文献購入費に重点的に回したいため。およびフランスのIMECにおける、デリダの遺稿調査のために予算を残しておきたかったため。使用計画としては、この2点、文献収集の範囲の拡大とIMECでの遺稿調査を中心に使用する。
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Research Products
(1 results)