2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K02190
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Research Institution | Shoin University |
Principal Investigator |
高村 夏輝 松蔭大学, 公私立大学の部局等, 講師 (60759801)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ラッセル的一元論 / 汎心論 / 汎質論 / 物理主義 / 意識のハードプロブレム |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、ラッセルの中性的一元論に影響を受けた「ラッセル的一元論」と呼ばれる立場に立つ論者の文献を調査し、その内容を検討した。ラッセル的一元論は、思考可能性論証や知識論証にもとづいて主張される物理主義に対する批判を受け止めたうえで、二元論に陥ることなく意識の実在性を認めることを試みる立場である。そのカギとなるのが、ラッセルによる物理科学に関する構造主義と、物理的出来事の内在的性質の経験的連関性の主張である。 ラッセル的一元論は、物理的出来事の内在的性質をどのように理解するかによって存在論的に区別される。意識される質的特徴を備えた、現象的性質そのものであるとするならば、汎心論になる。質的特徴は持つが、しかしそれは意識されることから独立に存在しうるとするならば「汎質論」になる。意識される質的特徴を必然化する性質であるが、しかしそれは意識されることから独立であり、かつ質的ではないとするならば「ラッセル的物理主義」の立場になる。ラッセル自身の中性的一元論は汎質論の一種である。 ラッセル的物理主義の抱える問題は、通常の物理主義を退け、かつラッセル的一元論をとる必要性を主張することが難しいことにある。汎心論と汎質論に対して指摘される問題として、「結合問題 combination problem」がある。汎心論よりは汎質論のほうが問題は少ないが、しかし意識される内容の構造に関する結合問題という困難が残る。一つの解決方法としては、意識される質を脳を構成する物理的出来事の内在的性質とするのではなく、意識される対象となる外界の物理的出来事の内在的質とすることがある。この方向でラッセルの中性的一元論を作り直していくことで、それは意識のハードプロブレムを解決する一つの立場として、積極的に評価しうるものとなると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度も研究以外の職務が非常に忙しく、また親族の中から病人が出たこともあり、特に学期中はほとんど研究時間を取ることができなかった。それゆえ、論文をまとめることはできず、「当初の計画以上に進展している」とはとても言えない。 しかし、長期休みの機関に、中性的一元論を現代化する試みともいえる「ラッセル的一元論」の立場について、かなり広範囲にわたる文献調査ができた。それに対する批判的検討と、それに基づく自説の展開を見通すことができた。またその成果を、2019年4月の応用哲学会で発表したところ、おおむね好意的な評価を受けることができた。当初の研究計画のうち、心の哲学と中性的一元論との関係については、かなりの進展があったといえる。それゆえ「おおむね順調に進展している」と自己評価したい。 ただし、今のところは議論のアウトラインができているといえる段階にすぎない。ラッセル的物理主義や汎心論、汎質論のそれぞれに対する批判の細部を詰めていけば、2019年度中にいくつか論文にして発表することができると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究の方向は、2018年度の研究成果をより精緻化し、論文にまとめて発表すること、そしてそれを踏まえて、意識のハードプロブレムに対して望ましい解決策として、ラッセルの中性的一元論をどのように具体化するかの見通しを立てることである。 結合問題に対する解決策として、意識される質的特徴を外界に位置付けることを提案したいが、この場合、そうした質的特徴を意識するとはいかなることかを説明することが重要な課題となる。中性的一元論をとる以前のラッセルは、面識という心的作用によってそれを説明したのだが、それでは心身二元論になってしまう。あくまで一元論を守ろうとするならば、心的作用と認める必要がない、なんらかの出来事間の関係(たとえば因果関係など)による説明を与える必要がある。 ラッセルの中性的一元論と近い立場から、こうした説明を与えうる議論を展開しているものとして、たとえばギブソンの生態心理学がある。生態心理学者のほうでも、中性的一元論期のラッセルに対する関心は大きい。そこで今年度は、生態心理学から学ぶべきことを探っていきたいと考えている。具体的には今年の9月から、ラッセルとギブソンの双方に関わりのある、ジャン・ニコーの著作を一緒に読みながら、知覚内容に備わる幾何学的構造・情報の役割について議論を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
国際学会・会議への出席費用として助成金を使用したいと考えているのだが、2018年度は、勤務先での教育・研究外の仕事があまりにも多いこと、離れた実家に住む家族の中から重病人が出てしまい、しばしば帰省しなければならなかったことなどから、海外出張をする時間的・精神的余裕が全く得られなかった。今年度は、昨年度に比べて仕事も減ったので、必ず海外へ出張したいと思っている。今年の夏、または冬の休みに、ラッセルについての研究、または意識についての研究会、学会に参加したい。
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Research Products
(1 results)