2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02190
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Research Institution | Shoin University |
Principal Investigator |
高村 夏輝 松蔭大学, 公私立大学の部局等, 講師 (60759801)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ラッセル的一元論 / 汎心論 / 汎質論 / 物理主義 / 意識のハードプロブレム |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、18年度から引き続き、現代の汎心論・汎質論という議論の文脈におけるラッセルの中性的一元論の持つ重要性を検討した。 2018年度の研究では、現代の汎心論者が採る戦略である、現象的意識の還元的説明不可能性を思考可能性論証や知識論証で示すというアプローチや、ミクロなものからマクロなものが構成されるとして創発関係を認めないアプローチを前提したうえで、ラッセルの立場の再評価を試みた。 これに対し2019年度の研究では、これらのアプローチを疑問視し、そうしたアプローチとは異なるものとしてラッセル的な汎質論の可能性を探ってみた。その理由は二つある。一つは、ラッセル自身は思考可能性論証のような、意識についてのアプリオリな議論に訴えているわけではなく、自然主義的な観点から意識概念の改訂可能性や創発関係を認めていることである。もう一つは、ベルクソン研究者やホワイトヘッド研究者との議論を通じて、意識に対する経験科学的な研究の重要性や創発概念を認めることを教えられたということがある。 そうした点を踏まえて、2019年12月14日に開催したシンポジウム「汎心論を再起動する」で、現代の分析哲学の汎心論とは異なるものとしてのラッセル哲学の特色と魅力を論じることとなった。そこでは、現代の汎心論で問題となっている「結合問題 Combination Problem」が、現象的意識に関する「思考可能性論証」と共通性を持つこと、さらに現代の物理主義者が自説を定式化するときに訴える「すべての事実がミクロ物理的事実に論理的に付随する」という主張も、それらと同様に様相的直観に訴えていることを指摘して批判し、自然主義的アプローチの重要性を主張した。そしてラッセル哲学の方法論である「分析の方法」により、一つの斉合的世界像として汎質論が魅力を持つと論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、2018年の研究成果を論文としてまとめて活字化すること、そして2019年度中の研究内容も同様にする予定であった。しかし、家族の病気と死去、本務校での激務、そして急に次年度の仕事先を探さなければならなくなるという状況が生じ、それらの目標が達成できなかった。
ただし、文献調査などの研究はそれなりに蓄積ができているので、相対的には「やや遅れている」程度であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は最終年度であるにもかかわらず、コロナウイルスの影響で授業準備に追われており、研究をする時間を取ることが難しい状況にある。 また、現在の勤務先の事務処理能力も研究支援に向けることができる状態になく、予算が執行できない状態にある。研究資料の入手すら困難な状況である。少なくとも、これまでの蓄積を論文化して発表することは目指したいと考えている。 そして今年度独自の研究としては、ラッセルが中性的一元論に転回するにあたって、ウィトゲンシュタインの『論考』からどういう影響を受けたのかを論じて、本研究課題の前半で行った『論考』とラッセル哲学との関連についての解釈と、汎心論・汎質論をめぐる議論とを接合したいと考えている。
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Causes of Carryover |
国際学会・会議への出席費用として助成金を使用したいと考えていたのだが、2019年度中も勤務先での教育・研究外の仕事があまりにも多く、その時間的余裕がなかった。ただし日本国内で開催される学会・シンポジウムなどにはこまめに出席することができたし、また自分で一つ開催することもできた。 今年度はコロナウイルスの影響で、海外に出かけることも国際学会に参加することも不可能だと思われるので、必要な研究資料の購入などに充てたい。
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Research Products
(1 results)