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2018 Fiscal Year Research-status Report

Towards construction of the richer concept of justice and the effective concept of care

Research Project

Project/Area Number 17K02195
Research InstitutionKansai University

Principal Investigator

品川 哲彦  関西大学, 文学部, 教授 (90226134)

Project Period (FY) 2017-04-01 – 2021-03-31
Keywords正義 / ケア / 衡平 / 傷つきやすさ / 人間の尊厳
Outline of Annual Research Achievements

2018年度は、徳倫理学に研究の焦点を定め、ハーストハウス、ヌスバウム、アナスを始め、徳倫理学の論稿を中心に研究を進めた。本研究が徳倫理学についてとくに論点として掲げているのは、次の3点である。(1)徳倫理学が、現在、ふたたび注目を集めている有力な要因のひとつに、共同体主義による徳倫理学の評価がある。本人が自分の生を選択して形成する自由を強調するリベラリズムにたいして、共同体主義は固有の文化的伝統の負荷のもとでのみ自己が形成されると主張する。共同体主義は徳倫理学を継承する理論として自己を説明するが、はたして徳倫理学それ自身は共同体主義と同じく特定の文化的伝統に拘束される理論であるか。(2)現代の倫理理論では、正義・権利を中心とする規範のグループと善意・善行を中心とする規範のグループとを類別することができるが、徳倫理学では家族・友人・同胞の幸福が本人の幸福の構成要素とみなされることで、善と正の関係が現代の倫理論とどのように異なるのか。(3)義務倫理学や功利主義に代表される近代の正統的な倫理理論が普遍的な原理や原則に立脚する普遍主義であるのにたいして、徳倫理学は個別の状況における適切な行為を倫理的とみなす個別主義である。このメタ倫理学上の対立が倫理学全体において果たす機能は何か。以上の3点を念頭において、徳倫理学の考察を進めた。この研究の一端を論文「ジョンソンとワルシュの善と正をめぐって――徳倫理学覚書(一)」として公刊した。
本研究の主題となる倫理規範のひとつである人間の尊厳に関しては、とくにユダヤ人の社会的同化と排除、その帰着点のナチズムとホロコーストを継続して研究する主題のひとつにしているが、これについては、初めてルクセンブルクやスイスで調査をし、多民族国家・多言語国家において(他と同様の差別と排除があるものの)「国民」の統一のもとに差別と排除が緩和される経緯に着目した。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

研究の進展を遺憾ながら「やや遅れている」と評価せざるを得なかったのは、ひとつには、勤務先の役職の負担が大きいためと、もうひとつには、本研究がその構成に役立つものの、本研究の主題そのものではない著作(倫理学の概説書)を現在執筆中にあるからだ。
その著作は一般の読者層を対象としているために、そこに本研究の成果がそのまま公表されるわけではない。ただし、本研究の成果が間接的に反映することはたしかでもある。本研究は「ふくらみある正義概念」を探求している。正義、とりわけ分配的正義の歴史的定義は、「その待遇を受ける値打ち(功績)――換言すれば、値打ち(功績)から発生する権原ないし権原に裏づけられた権利――のあるひとをそのように待遇する」というものであり、反面、それは当然ながら値打ち(功績、権原、権利)のない者をそれにふさわしい待遇から排除することを意味する。正義のその厳しさをなんらかの論拠にもとづいて和らげ、正義のもとに包摂されるメンバーを拡大したり、正義のもとで推進されるのではない行為を推進したりする考え方を、本研究では「ふくらみのある正義」と呼んでいる。したがって、本研究が探究する基礎的課題のなかには、倫理規範の分類と対比、それに応じた種々の倫理理論の分類と対比がある。上述の著作の第1章では倫理学に関する一般的説明のなかで倫理規範の分類と対比を、第2章では社会契約論、義務倫理学、功利主義、共感理論、徳倫理学それぞれの倫理理論の説明のなかで基礎となる倫理規範の違いにもとづいた倫理理論の対比を叙述している。以上は2018年度中に執筆した。本研究の扱う主題のうち、平等論の分析の成果は第3章に反映する予定である。

Strategy for Future Research Activity

「現在までの進捗状況」に記したように、研究計画の遂行が遅れており、遺憾ながら昨年の報告書に記した2018年度の研究推進方策の一部を2019年度に繰り越さざるをえなくなっている。それは、ロールズの社会契約論を批判してアリストテレスの友愛概念を援用するヌスバウムが著作『正義のフロンティア』のなかで展開した議論の集中的な研究である。ヌスバウムはその障碍者、外国人、動物への着目は弱者に着目するケアの倫理の発想と踵を接している。さらにそのなかにはケアの倫理の社会政策論を展開しているキテイへの批判が含まれており、以上からヌスバウムを本研究のいくつかの主題の結節点に置くことができる。ただし、以上の課題はたんに遅滞して2019年度にずれこんだというわけでもなく、ヌスバウムの思想を成り立たせている2本の柱の――ロールズにたいする批判をヌスバウムが共有するセンのケイパビリティ・アプローチと並ぶ――1本である徳倫理学について2018年度に考察を進めたことで、昨年度の「今後の研究の推進方策」に記した状況より進展している。
他方、「現在までの進捗状況」のなかに言及した執筆中の著作第3章に本研究の成果の一部を反映せしめようとしている平等概念の探究を進めていく。(分配的)正義概念にもとづいた分配を行えば、「現在までの進捗状況」に記したように、本人の値打ちに応じた配分結果となり、値打ちが異なる以上、平等は配分結果とならない。しかし、本人のその値打ちさえ、本人に帰せられるべきものではないのではないか。運の平等論はそう問いかける。本研究では「ふくらみのある正義」概念を結果的に作り出すものとして、運の平等論の考察を進める予定である。
人間の尊厳に関連して継続しているナチズムとホロコーストの問題については、2019年度も、ドイツのケルン中央図書館の「ドイツ語文献によるユダヤ研究資料コレクション」での調査を続ける。

Causes of Carryover

購入すべき図書が当初の予算よりも少なかったことによる。次年度使用額は2019年度の文献資料の購入、および海外出張(ドイツを予定している)のための旅費において使用する予定である。

  • Research Products

    (2 results)

All 2019 Other

All Journal Article (1 results) (of which Open Access: 1 results) Remarks (1 results)

  • [Journal Article] ジョンソンとワルシュの善と正をめぐって――徳倫理学覚書(一)2019

    • Author(s)
      品川哲彦
    • Journal Title

      関西大学文学論集

      Volume: 68巻, 4号 Pages: 17-38

    • Open Access
  • [Remarks] 品川哲彦のウェブサイト

    • URL

      http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~tsina/

URL: 

Published: 2019-12-27  

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