2017 Fiscal Year Research-status Report
生成の実在性と純粋な関係性をめぐるベルクソン哲学の研究
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17K02200
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Research Institution | National Institute of Technology, Kumamoto College |
Principal Investigator |
永野 拓也 熊本高等専門学校, 共通教育科(熊本キャンパス), 教授 (80390540)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生成 / 数学的構造 / 関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
【2017年度】①10月開催の国際シンポジウム「『物質と記憶』を再起動する;拡張ベルクソン主義の諸展望」に参加し、"Relation and encounter : a reading of Bergsonian "duration" around Matter and Memory"と題する発表を行った。これは「研究の目的」および「研究の実行計画」に即して、ベルクソンと数学的な構造との接点・対立点を、ベルクソンの最初の著作のうちに探る企図のもとに行われた発表である。この発表において、ベルクソンの第一著作『意識に直接与えられたものについての試論』の「持続」および第二著作『物質と記憶』の「記憶の平面」が一種の関係としての全体だと考えらえること、またこの全体が数学的かつ空間的な関係構造とは対立することを確認した。この発表はフランスのベルクソン研究の推進者フレデリック・ヴォルムスらから一定の評価を得ることができた。②1月末に渡仏し①の発表について研究協力者と情報共有し、最終年度の共同研究を進めるための打ち合わせをした。同時に、束、トポス、圏やダイアグラムといった抽象度の高い関係的な代数的対象の、現代哲学に与える示唆を探るLe College International de Philosophie主催の国際シンポジウムQuand la forme devient substance: Puissance des gestes, intuition diagrammatique et phenomenologie de l'espaceに参加した。これにより、論理的推論、脳の構造から生物進化の樹状分岐についてまで何らかの示唆を与える関係的な数学的対象について研究継続のための有意義な糸口を得た。③①のシンポジウムのアクトは書籍の形で刊行の予定である。発表原稿に加筆した原稿を提出済み。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度について、計画書「各年度計画」に記した【文献の範囲】のうち、a(ベルクソン哲学の解釈の面:ベルクソンの第1著作『意識に直接与えられたもの)、b(科学史的な側面:①フェヒナーやパースの感覚識別実験、リシェのテレパシー実験をめぐる文献を対象として。I. Hacking の考察を手引きに。②デデキントを代表とする数学上の、項のない関係のシステム、つまり「構造」の萌芽的な概念)については、上記のとおり【研究活動概要】の「国内開催の研究会・国際学会(特に平井氏のシンポジウム)」のための発表へむけて研究対象とした。その結果は、「国内外専門誌(日本哲学会、日仏哲学会、Annales bergsoniennes など)への投稿」という形はとらなかったが、上記シンポジウムのアクトへの論文掲載という形で発表する。【研究活動概要】のうち、フランスの研究協力者との連携については「「京都宣言」提議者のPaul-Antoine Miquel やElie During が主催するシンポジウム等のプロジェクトへの参加」という形はとれなかった。その代わり、主題と近い内容のパリにおけるシンポジウム(企画時にはDuringも名をつらねていた)に参加した。これは、2017年度に十分展開しなかった【文献の範囲】c(.科学認識論的な側面:F. Suppe による科学理論と法則についての意味論的分析を手掛かりに)について、今後取り扱うための手がかりを与えるものであったと考える。また渡仏によりDuringらとの打ち合わせを行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
計画書の「各年度計画」によれば、2018年度は、【文献の範囲】については、a(ベルクソン哲学の解釈の面:ベルクソンの第2著作『物質と記憶』と、これに続く時期の講義や、派生する講演など)、b(科学史的な側面:『物質と記憶』が扱う、当時の記憶の図式の諸理論について。とくに統計学に依拠する記憶のモデル化の方法)、c(科学認識論的な側面:郡司ペギオ幸夫氏による、確率論と層論を用いた記憶のモデル化など、現代の認知科学的な、あるいはニューラルネットをモデルとした記憶理論)、d( 科学理論の面:深層学習のメカニズムの理論構成について。とりわけ精度の高い識別と記憶を可能にする確率論的な装置 について)を扱うことにしている。しかし、これらについてはおおむね、2017年の研究でも踏み込むことを余儀なくされた。今年度はcについて、数学的な観点から少し基礎固めをしたい。これと連動して、31年度の【文献の範囲】のうちa(『創造的進化』周辺)、c(科学認識論的な側面:F. Suppe による科学理論と法則についての意味論的分析、カルナップの帰納論および、I. Hacking によるそのライプニッツの目的論理解への援用を手掛かりに)、d(科学理論の面:コルモゴロフによる大数の法則の論証。この論証に必要なルベーグの測度論にとっての無限集合論の役割の確認)についても作業を始める。【活動の概要】としては、「国内開催の研究会・国際学会への参加」と「国内外専門誌(日本哲学会、日仏哲学会、Annales bergsoniennes など)への投稿」を視野に執筆を進める。また「「京都宣言」提議者のPaul-Antoine Miquel やElie During が主催するシンポジウム等のプロジェクトへの参加」については、先方と連絡をとりながら、関係の深い研究企画への参加を計画する。
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