2021 Fiscal Year Research-status Report
Research Project on How Yan Fu's Experience of the West Influenced the Process of Producing Tianyanlun (his translation of T. Huxley's Evolution and Ethics), and Reception of this Text in Late Qing
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17K02203
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
坂元 ひろ子 一橋大学, その他部局等, 名誉教授 (30205778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高柳 信夫 学習院大学, 付置研究所, 教授 (80255265)
吉川 次郎 中京大学, 国際学部, 准教授 (00510778)
小野 泰教 学習院大学, 付置研究所, 准教授 (50610953)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 厳復 / 『天演論』 / 社会進化論 / 清末メディア / 清末思想 / 翻訳 / トマス・ハクスリー / 西洋経験 |
Outline of Annual Research Achievements |
トマス・ハクスリーの著作(「進化と倫理 プロレゴメナ」1894年とロマネス講演「進化と倫理」1893年)の大胆な意訳(事例を中国の故事におきかえることすらいとわなかった)にノートを付した厳復の『天演論』(1898年刊)は社会進化論の紹介において清末から中華民国期にかけて最も知られた書籍で、清末以降の思想・文学を中心に多方面にわたって大きな影響を及ぼした。だがそもそもハクスリーのテキストはギリシア以来の西欧のみならず、非西欧の思想家もが残した知的遺産にふみこむものであり、進化論とはいえ、人間は人類維持のため、弱者の困窮化を放任せずに保護して宇宙進化の残酷な生存競争・自然淘汰の法則と闘うべきだという立場をとる。それに対して厳復はハクスリーと対立して自然にまかせるべきだとしたスペンサーの説こそ中国が生き残る策を探るために必要だと考え、訳書ノートにはスペンサー流の論を多く用いた。しかも厳復が訳文に中国文としての「雅」、格調を重んじたことからも、清末当時の若手文人にすら難解であった。 本研究では、『天演論』とハクスリーの原書との対照はもちろんのこと、2014年には中国で厳復全集刊行もされ、手稿・未定稿・定稿のテキスト対照が可能となったことから、その形成過程を検証し、日本語訳本がない現状で定本訳稿の作成を目標のひとつにおき、同時代の西欧近代そして中国の現実に引き裂かれて苦闘した厳復の思想を読み取り、さらに同書の清末知識人世界における受容のありかたを考察してきた。 この研究過程において、厳復が訳文に用いた多くの中国古典の典拠、そしてノートに用いたスペンサー等の文章の出典の多くを明らかにしてきている。ハクスリーがインドの仏陀らの思想について説く部分が中国仏教などにおきかえられた部分なども、これまでになく解明しつつある。また文章の難解さは、主に手稿本を参照することで解決しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来は2021年度内に大学での定期研究会のほか、2018・2019年度同様に、分担者の大学のセミナーハウスで夏季合宿をおこなってテキストの読み合わせを終え、全訳稿をひとまず作成し、その検討をおこない、代表が海外での学会で成果を発表し、国内外の研究者を招いてのシンポジウムを開催する予定であったが、いずれもコロナ禍によって実現が困難となった。 肝要の全訳稿の作成のため、代替策として定期研究会をオンラインに切り替え、合宿時にのみ参加可能であった研究協力者のソウル大学梁一模教授がほぼ毎回、参加できるようにはなった。とはいえ、読み合わせ作業は、オンライン方式では効率が格段に落ちたことは否めない。それでも補助事業期間の再延長が可能となったため、予定より時間をかけることで一通りの粗訳はできた。 また、中国をはじめ海外での調査が全く不可能となり、国内での調査も、ようやく京都大学所蔵の版本調査が一部可能となったにとどまり、訳解と訳注作成のための大学図書館での調査作業も十全とはいえない。それでも、インターネットも活用してできるだけの調査はおこなってきていて、中国現代語訳本や韓国語訳本に比べても、あらたに解明できた点が相当多くある。 メンバー間でメールのやりとりなども重ねるなか、なんとか2022年7月末までにテキストの読み合わせ、粗訳の検討を終える見通しがついた。すぐに出版できる段階にまではいたらないにせよ、1年間の再延長によってひと通りの訳が終えられそうになったことで、キータームの抽出も可能になってきており、まとめ段階にさしかかる目途がようやくついたといえる。 ただ、課題のひとつでもある厳復の西洋体験についての調査は、海外渡航も現段階ではできないことから、文献的調査にのみよるほかなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、以降の出版にむけての『天演論』の全訳稿の作成が最優先であり、翻訳と訳注作成のための調査作業を、ネットも活用してできるだけおこない、2022年7月には読み合わせ・粗訳の検討を終える予定である。そのためにコロナ感染の様子をみながら、大学での対面定期研究会を復活するが、それができなければ2020年度以降同様、オンラインの定期研究会をできるだけ回数を増やしたい。複数の訳者が存在することから、訳語の統一や調整、訳注の作成のため、可能な限り感染対策を十分に講じながら夏季か秋季、あるいは遅くとも冬季にセミナーハウスでの合宿による作業を実施したい。 目下、日本のコロナ禍状況からして実際に海外と往来する見通しがまだ立たない段階にあり、たとえば中国からは国際シンポジウムでの成果発表の招聘をうけているが、オンライン方式となれば、参加して成果を発表する。 少なくとも2023年2月までにはオンラインで『天演論』に関する国際ワークショップを主催もしくは共催し、オンライン研究会にも参加しているソウル大学梁一模教授はもちろんのこと、途中から研究会に加わっている原正人中央大学准教授ほか、厳復研究でも知られるが日本語を解さない台湾の中央研究院近代史研究所の黄克武教授とも、ことに『天演論』の解釈上の疑問点について討論し、研究の質的向上をはかりたい。
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナ禍により、まず、予定したセミナーハウスで数日をかけて合宿を開催し、集中的な訳稿検討をする予定であったが、それができなかった。また同じ理由で訳注作成のためのおもに海外の図書館での調査ができなかった。さらに、海外で成果レビューを受けるために予定していたシンポジウム等がすべて延期となって、これも実現しなかった。 2022年度は、粗訳がでそろっているので、集中的な検討のためにコロナ感染状況をみながら、セミナーハウスでの合宿を開催する。状況が許せば、研究協力者のソウル大学の梁一模教授を招聘して、一度は研究会に招聘し、集中討議に参加してもらう。同時に研究補助員を雇用しての訳稿整理作業を進めながら、機会をみつけて国内外で開催されるシンポジウムに参加をして成果レビューを受ける。訳注の充実化のためにさらに書籍の補充購入も必要となる。 最終段階ではオンラインによるワークショップを開催することとして、その準備のための各種作業に補助者を雇用する必要が生じる。同時に能率をあげるために、スキャナー類の機器類の補充も必要となる。
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Research Products
(6 results)