2018 Fiscal Year Research-status Report
懐徳堂学派に始まる実学思想の研究―理念の実学から真の実学へ―
Project/Area Number |
17K02211
|
Research Institution | Anan National College of Technology |
Principal Investigator |
藤居 岳人 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 教授 (80228949)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 懐徳堂 / 朱子学 / 中井竹山 / 中井履軒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「実学」の概念を「現実の政治実践に資する学問」と規定したうえで、江戸時代の大坂に存した学問所・懐徳堂の儒者の儒教思想に表われる理念的な実学が、幕末期に至って地方藩藩儒や幕府の昌平黌儒官らの儒教思想に見える真の実学に昇華してゆく様相を分析する。 具体的には、懐徳堂における中井竹山の実学思想の分析と主に西国諸藩の儒者や昌平黌儒官佐藤一斎らの著述の分析を通して両者の思想的立場の親近性を明らかにする。それによって、寛政異学の禁で朱子学が官学として承認されて以降、徐々に実学たる本来の儒教に対する認識が高まる結節点に懐徳堂の儒教が位置することを明らかにし、江戸時代後期を代表する儒教の学派の一つとして日本近世儒教思想史上に懐徳堂学派の儒教を位置づけ直すことが本研究の目的である。 本年度は、中井竹山の『竹山先生国字牘』と播州龍野藩の儒者藤江貞蔵の『梅軒独語』とを題材に、両者が交流する様相を主に検討した。貞蔵が『梅軒独語』を執筆した時期は明確ではないが、貞蔵を含む龍野藩の儒者グループが藩政改革の意見を記した上書を藩に奉った時期である可能性が高い。結局、その上書一件は不首尾に終わり、儒者グループにも藩の処分が下った。『梅軒独語』には貞蔵の忸怩たる思いが反映しており、大坂からその状況を注視していた竹山も同様の思いを抱いていた。恐らくその時期に貞蔵に宛てたと思われる書簡が『国字牘』に見えるが、「修己」と「治人」とをバランス良く重視する竹山の立場から、失意の貞蔵を励まそうとする意図をうかがうことができる。この書簡の内容が、竹山の儒者としての立場が実際の藩政改革の動きに反映している一例だといえることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するために、①中井竹山と播州龍野藩の儒者との交流の様相を分析することと龍野藩の儒者の著述を分析することと、②中井竹山と西国諸藩の儒者との交流の様相を分析することと西国諸藩の儒者の著述を分析することと、③中井竹山に一時師事した佐藤一斎の著述の分析とその実学思想の解明と、の三点を中心とした分析を進めた。 ①については、中井竹山の『竹山先生国字牘』、藤江貞蔵の『梅軒独語』などを題材に中井竹山と龍野藩の儒者グループとが密に交流していた様相について論考にまとめる準備ができた。②については、竹山の『奠陰集』に見える論・説を中心に継続的に読解を進めつつ、熊本藩藩儒の脇愚山や藪孤山の文集の読解を進めている。③についても、『論語欄外書』『孟子欄外書』などの佐藤一斎の経学研究を中心に読解を進めている。 上述の研究を進めるための基礎資料の文献調査も継続中である。懐徳堂学派の儒者に関する一次資料の多くは大阪大学附属図書館懐徳堂文庫に所蔵される。それ以外にも懐徳堂関係の資料は、大阪府立中之島図書館、国会図書館東京本館、たつの市立龍野歴史文化資料館等において所蔵される。本年度も国会図書館東京本館の文献調査は実施できていないが、その他の大阪大学附属図書館、大阪府立中之島図書館、たつの市立龍野歴史文化資料館等の実見調査は実施できた。 以上のことから研究計画はほぼ順調に進んでいると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、①中井竹山と播州龍野藩の儒者との交流の様相を分析することと龍野藩の儒者の著述を分析することと、②中井竹山と西国諸藩の儒者との交流の様相を分析することと西国諸藩の儒者の著述を分析することと、③中井竹山に一時師事した佐藤一斎の著述の分析とその実学思想の解明と、の三点を中心に懐徳堂学派に始まる実学思想の分析をめさしており、全般的にほぼ順調に進んでいる。次年度は研究計画最終年であり、これまで進めてきた研究を総括すべく計画を推進する。 ①については、本年度まででほぼ中井竹山と播州龍野藩の儒者との交流の様相を分析することができた。次年度は、当初の計画に従って、②中井竹山と西国諸藩の儒者との交流の様相を分析することと西国諸藩の儒者の著述を分析することと、③中井竹山に一時師事した佐藤一斎の著述の分析とその実学思想の解明と、の二点を中心に研究を進めて、論考等にまとめる。 ②については、『奠陰集』の検討に加えて藪孤山の『孤山先生遺稿』、脇愚山の『脇蘭室全集』等の文献を中心に読解を進める。彼らはともに基本的に朱子学者だが、彼らの文集の読解を通して、竹山と同様に、儒者としての彼らの立場にも実学思想が反映している様相を明らかにする。③については、佐藤一斎による『論語欄外書』『孟子欄外書』などの経学研究等の資料の読解を引き続き進めて、その実学思想の様相を解明する。
|
Research Products
(2 results)