2019 Fiscal Year Research-status Report
北欧北方宗教哲学における葛藤の原理―復讐・無垢・共生の精神史的ダイナミズム―
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17K02229
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
中里 巧 東洋大学, 文学部, 教授 (40277348)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | キリスト教正教 / サーミ / イヌイット / 北欧 / 北方 / 復讐 / トラウマ / 悪魔祓い |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、サーミ・イヌイットに対する正教布教とエッダサガの復讐物語の考察が主であり、文献収集や資料解読、長野県黒姫童話館におけるミヒャエル=エンデ私文書の調査、データベース作成や研究発表や論文作成などをおこなった。 研究成果としては、1.サーミ・イヌイットとキリスト教正教の親和性は、自然や人間のうちに神性を看取すること、2.キリスト教正教におけるイエス=キリストの死よりも復活を重視するという或る種の楽観主義や積極性が、親和性を教化していること、3.エッダサガの復讐物語は現代精神医学におけるトラウマ論から考察すると興味深く、復讐遂行がトラウマを解消することはなく、相互扶助や情愛によってトラウマは解消されること、4.すなわち、キリスト教正教における楽観主義や積極性がサーミ・イヌイットの呪術的世界観と通じ合う要素であるとともに、エッダサガにおける血の復讐を解消する要素でもあることが、明らかになったことである。 キリスト教とサーミやイヌイットの自然宗教としての呪術は、必ずしも矛盾相克するものではない。キリスト教悪魔祓い師が有する倫理観や善悪の概念を考察すると、自然宗教は善と悪を併せ持つものであり、白魔術の場合もあれば黒魔術の場合もある。キリスト教の特徴は、悪に対して善を以て対抗するという姿勢に尽きるように思う。悪魔祓いをとおして、善悪の関係性をより具体的に解明できるという端緒を発見できたことも、トラウマ論の有効性の発見とともに、大きな成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進んでいる。ただし、2019年度における研究成果は、当初の計画においては予測していなかったような内容なので、サーミ・イヌイットの正教布教やエッダサガの復讐譚を個別に分析して分類するような作業にはならず、宗教性や思想性の観点から、それぞれを貫く根本的な特徴を見極めることに、精力が注がれた。とりわけ、トラウマ論や悪魔祓いに関する文献を数多く収集し精読して、研究の遂行をおこなっていった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、キルケゴール思想の内閉性と正教の文化回復力の考察を主におこなっていく。より具体的には、正教の多元主義や文化回復力についての考察・キルケゴール思想の内閉性の考察・本研究全体の総括作業・公開講座開催・データベース作成などである。また、2020年度は、本研究の最終年度にあたるので、北方の哲学原理としての神・世界・意志をめぐる破綻と回復について総括して、とりわけ、主要概念を体系化して、本研究をまとめていく。
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Research Products
(4 results)