2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K02231
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
深井 智朗 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 教授 (40306379)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 翻訳の政治性 |
Outline of Annual Research Achievements |
翻訳の政治性について、オイゲン・ディーデリヒス社刊行のキルケゴール著作集の内容、翻訳者の思想、翻訳方針などについての調査を開始した。 宗教的思想家キルケゴールは、彼の没後、1860年代にはドイツ語に翻訳され、紹介されていたが、最初のドイツ語版著作集を刊行したのはオイゲン・ディーデリヒス出版社で、第一次世界大戦による中断はあったものの1909年から1922年の間に全12巻が刊行された。編集は自由教会運動、あるいは当時の既存の教会制度や神学に批判的な立場にあったH・ゴットシェートとCh・シュレンプフであった。同社はこの著作集を補うように他にも数冊のキルケゴールの著作の翻訳を試みている。 これらの書誌情報を調査し、ゴットシェートとシュレンプフの思想と、ディーデリヒス社の出版方針、翻訳内容や原著タイトルの翻訳に際しての変更の理由などを分析した。 編者のシュレンプフは、1892年に教会の堅信礼教育にあたって「使徒信条」の使用を拒否し、その歴史性についていくつかの疑義を教会に提示したために、免職となり、年金の受給権も剥奪された。彼は1930年に『教会のために抵抗する』という著作を刊行しているが、彼も宗教としてのキリスト教を否定したのではなく、制度としての教会を批判している。 この出版社と編集者がキルケゴールの著作集を編集し、翻訳し、刊行した時に、彼らは自らが直接主張することができなかった当時のドイツ・ルター派教会への批判を、国教会を批判したキルケゴールに代弁してもらい、また彼の書物を通して教会批判の論理構造を大衆に広め、教会という制度に依存しない神と個々人の間の信仰の確立の意義を提示し、その決断を迫ったのである。その意味では最初の翻訳は教会政治的な意図を多分に含むものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
学内での研究にかんする調査があったため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度をもってこの研究は中断し、完了した研究とその成果までを報告する。
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Causes of Carryover |
学内での研究調査のため、科研費の仕様が停止したため。
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