2017 Fiscal Year Research-status Report
死者への記憶に基づく宗教的情操の哲学的考察―死者倫理の基盤形成
Project/Area Number |
17K02233
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
佐藤 啓介 南山大学, 人文学部, 准教授 (30508528)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 死者倫理 / 宗教哲学 / 現代哲学 / リクール / フランス思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、人間存在において記憶と物語が倫理形成に果たす役割に着目し、死者に対する敬意の根拠を明らかにすることを目指すものである。H29年度はその初年度にあたり、以下の二点において、具体的な成果を挙げることができた。 第一に、現代思想において物語論の重要な参照項とされているリクールとアーレントの思想、とりわけ二人の「言論」観を比較することによって、リクールがアーレントの活動概念に対して一定の留保を与え、言論が倫理性と同時に反倫理性(暴力)の可能性をつねに秘めていることを指摘していると、解明することができた。本研究は、アーレント研究会のシンポジウムにおいて講演をおこない、またそれを同研究会の会報において論文として公開した。 第二に、死者倫理の様々な可能性として、従来強調されがちだった大陸系思想の他者論に基づく死者倫理とは異なるしかたで、英語圏の分析哲学において展開する「死の害の哲学」に着目し、そこから成立しうる死者倫理の姿を明らかにすることができた。死者をことさらに他者として強調するのではなく、生きている人に対する倫理的配慮と同程度に、同一根拠において死者に対しても倫理的配慮が求められうるという点について、解明することができた。本研究は、宗教哲学会のシンポジウム「その続きを生きている―死者との関わりの諸相」(筆者もその企画に携わった)において講演として発表し、H30年度、同学会の学会誌に論文として投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、計画の時点では、H29年度は主にリクールの物語論を検討対象とし、物語化の作用が人間の倫理をどのように生じさせるかを明らかにすることとなっていたが、H29年度は、アーレントとリクールの比較研究を通じて、おおむねその計画通りの成果を挙げることができたと思われる。当初の計画では、渡仏してリクールの草稿などを調査する予定であったが、国内調査で相応の文献を入手することができ、一部計画の変更をおこなった。 また、分析哲学における死者倫理の成立可能性の検討は、本来、H30年度以降におこなう予定であったが、宗教哲学会のシンポジウム企画に携わるなかで、その予定を一部早めておこなうことが有益であることが分かり、前倒ししてその研究にも着手した。 なお、国内より研究者を招聘して研究会を開催するという予定については実施しなかったが、上述のとおり、宗教哲学会のシンポジウムを自身が企画し、堀江宗近氏(東京大学)らと登壇し議論をおこなったことで、十分その代わりとなる進捗を得ることができたと思われる。 結果、本研究課題は、当初の計画通りにおおむね順調に推移していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、今後は、宗教学における死者論と宗教哲学との架橋を目指す研究を進めていく。また、その際に死者についての記憶のメディアを言語的なものに限定せず、空間的・物質的なものへと拡張すべく、人類学的・考古学的議論にも研究を広げていく予定である。 また、死者についての哲学的考察を掘り下げるため、昨年度に引き続いて、大陸系の他者論の死者論を、より広範に考察していく。とりわけ、レヴィナスやデリダの思想への参照は不可欠となるであろう。また、死の害の哲学から構築しうる死者倫理についても、さらなる研究の継続が必要であろう。 以上の研究の成果を、日本基督教学会、宗教学会、宗教倫理学会などの学会・学会誌にて公にするとともに、『現代思想』『理想』などの雑誌においても論考を執筆準備中である。
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Causes of Carryover |
渡仏してリクールの草稿群を調査する予定であったが、長期にわたる海外出張が私的事情(実父の介護)により難しくなったことと、国内で十分な文献を入手できたことから、その海外調査分の費用が不要となった。 それにより生じたH30年度使用額としては、すでに当初の予定になかった国内学会・研究会での参加・発表要請がいくつか届いており、そこにおいて当課題の研究成果を報告するために使用する予定である。
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