2021 Fiscal Year Research-status Report
死者への記憶に基づく宗教的情操の哲学的考察―死者倫理の基盤形成
Project/Area Number |
17K02233
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
佐藤 啓介 上智大学, 実践宗教学研究科, 教授 (30508528)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 死者倫理 / 宗教哲学 / 死者論 / 死の害の哲学 / 宗教学 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルスの影響により、2020年度までの予定であった本研究課題の終了期間を延長して2021年度の研究に取り組んだ。そのため、当初予定の最終年度にあたる2020年度に本来実施を計画していた「死者倫理をめぐる宗教哲学と宗教学の接続」を中心に研究を進めた。 そこから、論文「死者倫理の基礎づけを展望する」(佐藤2022)を執筆し、宗教民俗学者の鈴木岩弓氏の「2.5人称」概念を導入することで、倫理的に配慮されるべき「死者」の地位・範囲を集合的死者へと変容する手前にある個別的死者であることを論じるとともに、宗教哲学と宗教学の死者論における架橋可能性を示すことができた。 また佐藤2022では、本研究課題で代表者が執筆した論文「〈死者の尊厳〉の根拠」(佐藤2019)の内容を、大幅に批判的に前進させることができた。佐藤2019において代表者が提示した「下からの死者倫理」について、哲学・倫理学の研究成果を参照することでその諸問題点を明らかにすることができ、研究に大きな進捗が見られた。具体的には、佐藤2019では、社会的表象・言説によって記憶・記録される象徴的実在としての死者への倫理的配慮の意義・有効性を論じたが、佐藤2022において、1)象徴的実在が形成されがたい死者をめぐる問題、2)象徴的実在への倫理的配慮が架空の存在者へのそれと区別できなくなってしまう問題、3)現実的実在としての死者への参照抜きに象徴的実在としての死者への倫理的配慮が成り立たないという構造的問題を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は2018~2020年度まではおおむね順調に進捗していたが、概要欄にて述べたように、新型コロナウイルスの影響により最終年度である2020年度は十分な進捗を見せず、1年の期間延長をおこない、それにより、2020年度において本来予定していた研究内容をかなりの程度補うことができた。他方で、2021年度においても新型コロナウイルスが収束を見せなかった影響により、国内外への研究出張が大幅に制限され、その影響による研究会・研究交流の実施や情報収集に支障が生じた。オンラインによる研究会・研究交流などによる代替施策はおこなったものの、なお十分とは言いがたい。そのため、当初の研究計画の最終年度に実施すべき内容が十全に実現できたとまでは言えず、進捗状況は「やや遅れている」と判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、研究成果の発信方法として、当初はシンポジウムや研究集会を実施することを予定していた。しかし、2022年度も新型コロナウイルスの感染状況が予想しがたいことから、成果発信の方法(研究集会の実施方法)をオンライン主体に切り替えるとともに、論文による成果発信を重視し、当初は国際学会での口頭発表を予定していた研究成果も、活字化して投稿することとした(投稿申込済)。 本研究課題の進捗の遅れは主として最終年度の成果発信面に関わるものであったため、以上の対応によって十分計画通りの課題推進が可能であると見込まれる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染が改善されなかったため、当初予定していた国内出張・国外出張が実施できず、それにより研究機関の再延長をするとともに、次年度使用額が発生した。出張を中心とする予算の使用から、別の方法による研究成果発信へと切り替え、金額も主としてその方面(論文投稿費、ネイティヴチェック代など)で使用する予定である。
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