2019 Fiscal Year Research-status Report
科学技術時代における宗教倫理の展開─「不在者の倫理」の構築
Project/Area Number |
17K02235
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小原 克博 同志社大学, 神学部, 教授 (70288596)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 科学技術 / 宗教倫理 / 食 / 犠牲 / 記憶 / 世代間倫理 / 人工知能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、科学技術が人間の欲望を先導する時代において、宗教倫理の視点から、現代世代の倫理的責任を明確化し、世代を超えた新たな公共性の認識を拓くことを目的としている。「現在の存在者」の利益を最大化するために用いられる科学技術を、ただ現代世代の利害関係、現代世代の公共性の内部において批判するだけでは十分ではない。宗教学や宗教倫理においてなし得る固有の働きは「過去の不在者」にかかわる豊穣なリソースを活用し、同時に「未来の不在者」に対する想像力を活性化することを通じて、過去と未来に対する倫理的射程を拡大し、それによって現代世代に課せられた責任を喚起することである。 このような課題を担う「不在者の倫理」構築するために、2019年度は、その構成要素の中から、特に「犠牲の倫理」における課題を整理した。近代国家は伝統的な「犠牲」の観念を迷信として破棄したのではなく「犠牲のシステム」としてアップグレードさせ、それは科学技術によって補完されている。近代日本において、そのシステムは国体の形成、戦争協力という形で具現化されたのであり、そのことを戦後の平和主義の課題と合わせて考察した(堀江宗正編『宗教と社会の戦後史』に寄稿)。 また、科学技術がもたらす現代的特徴を俯瞰するために、「自然─人間─人工物」という伝統的な区分が曖昧化しつつあることに着眼し、その事例の一つとして人工知能をめぐる倫理的課題を考察した。現代人の志向性や価値判断の多くは技術によって媒介されており、人間は純粋な意味で自律的存在であるとは言えない。人間と人工物(技術)の根源的な相互浸透性を視野に入れることのできる倫理や法が求められる。また、日本の文化においては人間とモノ(人工物)との境界線が曖昧で、両者の間の交流が比較的容易である。こうした特性を、科学技術時代における宗教倫理の展開に生かすことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の基盤となる論点を整理し、その成果を学会等で発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画において掲げたキーコンセプトを、さらに掘り下げ、学会等を通じて、思索の途中経過を積極的に発表していく。また、まとまった成果は、論文や単行本の執筆につなげていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大に伴い、年度末に予定していた海外出張を実施できなくなったため、本研究の当該年度使用において残高が生じることになった。次年度においては、差額分を十分に意識して、研究費の適正な執行に努める。海外出張がどの程度自由にできるかは不透明な部分があるが、適切なタイミングによる出張計画を立て、また、最終年度における研究の総括となるよう積極的な成果発表を心がける。
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