2018 Fiscal Year Research-status Report
東アジア山岳宗教研究の基盤形成―日本・中国・韓国の国際比較研究から―
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17K02241
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
須永 敬 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (90390004)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 山岳宗教 / 修験道 / 英彦山 / 泰山 / 智異山 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、日本・中国・韓国の代表的な山岳霊山(英彦山・泰山・智異山)について、自然と山岳宗教・心意と山岳宗教・社会と山岳宗教という3つのアプローチから比較検討を行い、東アジア山岳宗教の比較研究の基盤を築くことを目的としている。 研究2年目となる2018年度は、主として宗教的実践(祭礼・法会・巫俗儀礼など)の比較研究を行った。具体的には、近代以降の英彦山における神道・仏教・教派神道・民俗宗教、泰山における道教・仏教・風水思想、智異山における儒教・仏教・巫俗・風水思想、などを対象に、宗教実践と諸宗教の習合の諸相について考察を行った。 特に、日本英彦山と韓国智異山については現地調査によってその具体的様相を捉えることができた。近代英彦山の信仰を知るうえで重要な役割を果たした教派神道神理教については、教団文書の分析から英彦山との関係を詳細に考察することができた。また、韓国智異山においては、山神祭(10月)・天王祭(11月)の現地調査を実施し、巫俗と儒教とが習合した現代韓国の宗教実践の様相を調査することができた。 また、10月と3月には学会発表を行い、本研究課題の成果を公表するとともに、3月には学術論文をまとめ、公表した。さらに年間を通して東アジア山岳宗教に関する文献の収集分析に取り組んだ。 以上のように、2018年度は、近代の英彦山信仰に大きな影響を与えた神理教を新たなフィールドとして開拓するとともに、昨年度に構築した国際連携関係を活用して韓国の山岳宗教実践を詳らかに調査するなど、研究実績に大きな弾みをつけることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は日本の英彦山、韓国の智異山に関する研究について大きな進展が見られた。英彦山については、近代の講社組織化、官幣社昇格運動といった各場面において教派神道神理教の介在があったことが神理教所蔵資料の調査を通して初めて確認することができた。英彦山における修験崩壊後の山岳宗教の教理・組織化・宗教実践についてこれまでにない視角からの研究が可能となった。 また、韓国智異山においては、山神祭(10月)・天王祭(11月)の現地調査を行い、現代韓国における巫俗と儒教との併存祭祀の実践を実見するとともに、菩薩(女性巫者)・法師(男性巫者)・儒者への聞き取り調査を行った。また、2018年に「韓国の山寺」が世界遺産に登録されたことは、本研究とも関連がある出来事であった。たとえば、智異山にも近い松廣寺では、境内の伽藍と山川といった自然環境、および山内に点在する庵・塔・窟などの存在が確認できる。韓国の山寺研究の視点を取り込むことは本研究の進展にも益すると考えられる。 なお、研究成果については、口頭発表2件、学術論文1本をそれぞれ発表している。 以上の進捗状況を踏まえると、本研究課題はおおむね順調に進展しているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、日中韓の山岳宗教について、主として宗教制度(社会と山岳宗教)に着目しつつ調査・研究を進めたいと考える。その際には、日中韓の山岳聖地観・山岳宗教実践にみられる共通性と差異の大きな要因であり、各国の山岳宗教の特性を規定したとみられる近世(江戸時代・宋代・朝鮮時代)以降の山岳宗教に関する諸制度を調査し、比較検討を進めたい。 具体的には、日本英彦山については、別格本山成立から修験廃止までの変遷を、中国泰山については、国家祭祀から民間祭祀への変遷を、韓国智異山については、朝鮮時代の儒教国教化と廃仏政策を、それぞれ文献調査と現地調査を併用する形で分析していきたい。 また、年間を通して東アジア山岳宗教の文献収集・分析を行う。なお、本年度は韓国および智異山の宗教制度史を重点課題に据え、資料収集に努めたい。 また、2019年度より研究の後半に入るため、国内外における研究成果の発信をさらに積極的に進めたい。
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Causes of Carryover |
2018年度は韓国出張が2件(山神祭・天王祭)発生したため、本来中国出張(1回)に充てていた予算を振替えて使用した。このため旅費の差額(中国出張費-韓国出張費)が生じた。なお、2018年度に実施できなかった中国調査については、2019年度経費に今回生じた次年度使用額を加えて実施する予定である。
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