2019 Fiscal Year Research-status Report
東アジア山岳宗教研究の基盤形成―日本・中国・韓国の国際比較研究から―
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17K02241
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
須永 敬 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (90390004)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 山岳宗教 / 修験道 / 英彦山 / 泰山 / 智異山 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、日本・中国・韓国の代表的な山岳霊山(英彦山・泰山・智異山)について、自然と山岳宗教・心意と山岳宗教・社会と山岳宗教という3つのアプローチから比較検討を行い、東アジア山岳宗教の比較研究の基盤を築くことを目的としている。 研究3年目となる2019年度は、主として山岳宗教の制度史(日中韓における宗教と国家制度)の比較研究を行った。具体的には、日本・英彦山の別格本山成立から修験廃止までの変遷について、中国・泰山における国家祭祀から民間祭祀への変遷、韓国・智異山における朝鮮時代の儒教国教化と廃仏政策について、特に近世から近代にかけての変容に注目しつつ資料収集と考察を行った。 また、現地調査においては中国泰山と日本の京都の調査を実施した。中国泰山においては、小泰山七十二窟という山岳聖地を中心に、泰山とその周辺聖地の踏査を行い、中国における自然環境と山岳宗教との関係性について新たな知見を得ることができた。また、香社と呼ばれる参拝者集団とそのリーダーへの聞き取り調査を行い、日本の山岳信仰における講社の活動との比較研究の礎を築くことができた。また京都においては、泰山府君を祀る赤山禅院、および大将軍神社・晴明神社の実地調査を行い、日本における泰山信仰の受容について、さらには日本における道教受容に際しての、密教・陰陽道・修験道の役割について、多くの知見を得ることができた。 なお、2019年度は海外(中国)にて2件の学術講演を行い、国内では1件の学術発表を行った。またこれに加えて、3件の市民向け講演を行い、科学研究費による研究成果を社会に還元することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、中国の現地調査において大きな進展が見られた。泰山のみでなく、小泰山などその周辺域の山岳聖地をも併せ考えることによって、泰山および当該地方の山岳宗教の自然観・宗教実践などをより複合的に理解できるようになった。また、実際の宗教者や香社という集団参拝者集団とそのリーダーへの聞き取りを通じて、泰山信仰の動態的側面をより具体的に捉えることができた。また、伝統的な香社のなかには、近年旅行社として活動を行っているものもあった。山岳宗教の近代化・現代化にともなう参拝者集団の企業化という点では、中国にかぎらず、多くの聖地信仰に通じる点であるようにも思われる。今後の研究でさらに明らかにしていきたい。また、京都における調査では、泰山信仰の日本における受容について知ることができた。泰山府君は比叡山における密教護法神として招来され祀られたわけであるが、時代が下るにつれて寿命の神、財運の神といった民俗神的様相を帯びて、現在に至っている。このような信仰の俗化ともいうべき動きは、中国の泰山においても認められるのであり、両泰山神の考察を通じて山岳宗教の変遷の比較研究に一つの視座が得られると考える。 また、研究成果については、海外講演2件、国内学会発表1件、国内講演3件を実施しおおむね順調といえる。ただし、学術論文については年度内に発表することができなかった。2019年度の研究を踏まえて、2020年度に順次論文として公表していきたい。 このように、おおむね順調といえる状況のなか、「やや遅れている」と判断したのは、いうまでもなくCOVID-19の影響によるものである。本来であれば、春節に中国に渡航し、泰山香社の同行調査を実施する予定であったが、それができなくなり、次年度以降へと持ち越しとなった。当初は全く予期していなかったCOVID-19の流行に伴い、本研究も大幅な研究計画の見直しが必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度となる2020年度は、これまで行ってきた東アジア山岳宗教の多面的理解に基づき、総合的な比較検討を実施していきたい。 具体的には、これまで各国において続けてきた調査研究の成果を総合し、a.聖地観(自然と山岳宗教)、b.宗教的実践(心意と山岳宗教)、c.宗教制度(社会と山岳宗教)の各テーマごとに比較研究を行い、東アジア山岳宗教研究の基盤を作り上げたい。 ただし、本年度の研究の推進方策を定めるうえで、COVID-19の影響を考慮外に置くことは出来ない。本来であれば年度の前半期に、英彦山・泰山・智異山の補足現地調査を実施する予定であったが、これを年度の後半期以降に移さざるを得ない状況になった。さらに、状況によっては、本年度の現地調査自体が実施できなくなる可能性もある。また、研究成果の公表については国内・海外での論文発表・口頭発表を予定しているが、こちらも現時点では可変的である。 以上のように、今後の研究の推進方策については、COVID-19の事態の推移に注目しつつ、臨機応変に対応していきたい。
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Causes of Carryover |
本来であれば、春節(旧正月)に中国で泰山香社の現地調査を実施する予定であったが、COVID-19の流行を受けて調査実施を断念した。これにより、出張旅費・謝金に充てていた予算を執行することができなくなった。なお、今回実施できなかった中国調査については、もし本年度内に調査可能な状況になれば、今回生じた次年度使用額を利用して実施する予定である。
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