2017 Fiscal Year Research-status Report
日本におけるクィア神学の文脈化をめぐる研究――「解放の神学」アプローチの可能性
Project/Area Number |
17K02245
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
堀江 有里 法政大学, 大原社会問題研究所, 研究員 (60535756)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クィア神学 / 解放の神学 / ジェンダー / セクシュアリティ / 地域活動 / 寄せ場 / 天皇制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、性的マイノリティの視座から生み出された「クィア神学」を日本の文脈のなかで読み直すにあたり、「解放の神学」のアプローチの可能性を探ることを目的としている。初年度は「解放の神学」の理念を実践するキリスト教関係者が多く活動に従事する、大阪釜ヶ崎、東京山谷と並ぶ日本の3大旧ドヤ街(かつての日雇労働者のまち)である横浜寿町を中心に参与観察を行なった。寿炊き出しの会、寿地区バザー、ことぶき学童保育、寿みんなの映画会の日常活動、年末年始に開催される「第44次寿越冬闘争」(突入集会や行政交渉も含む)への参与観察のほか、日本基督教団神奈川教区寿地区活動委員会への参加、寿アルク理事会および合同運営協議会への出席など、地域諸活動の運営状況や理念を知り、情報収集することによって、住民や支援者との関係構築に努めた。この参与観察から浮かび上がってきたことは、住民の8割以上が単身高齢者男性であることと比較し、支援者には女性が圧倒的に多いことである。とりわけ、ボランティア人口の多くをキリスト教関係者が占める。「男のまち」と表現されてきた旧寄せ場において、女性支援者たちのまちへの流入について、ジェンダー/セクシュアリティの視点から検討する必要も明らかとなった。 横浜寿町にとどまらず、日本基督教団において「解放の神学」を遂行する諸課題のフィールド調査も行なった。具体的には岩国米軍海兵隊基地、沖縄米軍基地および戦跡、大阪生野の在日コリアン集住地区などである。性差別問題を中心とする全国的な会合にも参加し、情報収集と意見交換を行ない、共通課題を探ることに努めた。 また、その参与観察や他フィールドとの比較の中から、共通の課題として、天皇制や基地問題など、人権をめぐる諸課題との連関があることも浮かび上がってきた。参与観察の中間報告として、天皇制の諸問題についても研究報告や講演、論文等の公刊を行なうことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、新しいフィールドでの調査を開始したため、諸活動への参与観察を研究活動の中心に据えることとなった。横浜寿町をおもなフィールドとして定めたが、現在、諸活動をすべて統括あるいは把握している団体はなく、参与観察のなかで知り得た団体や活動に赴き、情報収集や関係構築を行なうこととなった。このようなアクション・リサーチを中心としたため、ほかの課題に時間をさくことが困難であり、当初予定していた東アジアにおける実践課題やフィールドへの調査や学会(国際学会を含む)での成果発表などを行なうまでに至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
実証的研究については、引き続き、参与観察を継続する。横浜寿町を中心とした研究活動では、一年間の参与観察で得た知見や関係をもとに、女性支援者のまちへの流入契機や動因を探るため、インタビュー調査を行なうための準備を進める予定である。また新年度には横浜寿町における女性支援者の立場を考えるための学習会を地域活動団体と共催で開催し、性暴力被害・加害の生じる原因と対策について検討するための場を設定し、社会還元を行う予定である。 理論的研究については、クィア神学の英語圏での研究蓄積を、引き続き、精査することによって、とくに(1)国家と教会の関係、(2)ジェンダー/セクシュアリティの課題と民族や貧困の課題等が交錯する地点についての諸課題について検討を進めたい。
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Causes of Carryover |
フィールドの拠点となった横浜寿町での参与観察に研究活動の時間と労力を多く使用したため、本年度は調査で収集したデータの分析、また、当初予定していた国内調査(奄美、北海道)および海外調査(韓国)を行なうことができなかったため、次年度使用額が生じることとなった。 繰り越した研究費は、次年度にデータ分析のための機材の購入、国内外調査の旅費、謝金等に使用する予定である。
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Research Products
(12 results)