2018 Fiscal Year Research-status Report
降霊術から腹話術へ~西洋近代「魔女」概念の形成に関する研究
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17K02250
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
高井 啓介 関東学院大学, 国際文化学部, 准教授 (00573453)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 旧約聖書 / 降霊術師 / ヘブライ語 / ギリシア語 / 腹話術師 / ダイモーン / エンガストリミュートス / バアラト・オーヴ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究内容を以下の3点に集中して実施した。(1)旧約聖書の降霊術師と預言者の役割の違いの確認。(2)古代末期から中世のユダヤ教およびキリスト教の聖書釈義において、降霊術師=腹話術師がいかなる評価を獲得し、宗教的含意が付与されていくかの考察。(3)16世紀以降の英米の歴史資料・文学資料のなかに描写され、腹話術師とされる多くの予言者・魔術師たちへの言及とその評価の分析。 以下が本年度の成果である。(1)については、これまで過度に旧約聖書の降霊術師と預言者の役割の違いが過度に強調されていたことを指摘し、両者の役割の正しい理解と前者の役割の明確化を行うことにより、降霊術が常にまとってきたマイナスイメージ(負の側面)がどのように生じたかを指摘するとともに、共編著のなかにこのテーマで論文を執筆した。(2)については、キリスト教教父の聖書注解のなかでエンガストリミュートスの体内に悪霊のイメージが強いダイモーン、ダイモニオンの存在があるということが昨年度の研究によって明らかになってきたことを受けて、本年度は中世を経て16世紀に至るまで関連資料を詳細に検討することで、エンガストリミュートスとされた降霊術師とダイモーンの関係をさらに明確にすることができた。(3)については、16世紀以降の英米の歴史資料・文学資料のなかに、「霊」が人間の体内に憑依することによって引き起こされたとされる現象が多くみられるが、そのような現象がどのように解釈されていたかの分析を通して、占い・予言をする者の腹で語られるその声を、悪霊の声、ダイモーンの声とする理解が定着しつつあったことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は米国への海外調査の延期により次年度に行う研究のための図像資料を直接複写収集することができなかったので、当初の研究計画よりやや遅れが発生している。しかし、国内からもアクセス可能な図像のデータベース、国内で入手可能な論文および、研究費で購入した図像資料を含む文献を通して、できうる限りの図像資料の収集を行うことでこの点を補った。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)最終年度は、「降霊術」と「腹話術」および「魔女」が描かれた図像の分析を中心に研究を進める。具体的には、聖書写本の挿絵で、また絵画のなかの図像表現で、エンドルの降霊術師の描写が近代以降にいかに「魔女」へと変化したかについて検討する。 (2)現代的エンターテインメントとしての「腹話術」の歴史に関連する資料の収集およびその分析もあわせて行う。 (3)初年度から本年度までの文献学的研究および図像資料に関する研究成果をまとめる形で、国内および国外の学会誌に投稿する。また、文献学的研究および図像学的研究で得られたデータに対する宗教思想史的分析の成果に関して海外の関連学会で発表する。
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Causes of Carryover |
本務が多忙を極めたために、予定していた海外調査(米国)の日程を組むことが不可能となり、旅費を使用することができなかったために、大幅な次年度使用額が生じた。次年度は、海外学会での発表に加えて、当初計画予定にはなかった海外調査(米国)のための日程を設定し、その使用を行う。
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