2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02254
|
Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 徹 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (20193500)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 時間表象 / 夏目漱石 / 小津安二郎 / 寺山修司 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年6月12日にドイツ・フライブルク大学で、講演Japanische Kunst und die zeitliche Transformation der aesthetischen Erfahrung in der Gegenwart(現代における美的経験の時間的変容と日本の芸術)を行なったが、これは本研究の全体的志向を先取的にまとめたものである。また10月8日には、弘前大学で行われた日本倫理学会第68回大会において、夏目漱石、寺山修司の時間表象に関する研究の一端を含むかたちで「美的経験の変容と倫理の別なかたち」を報告した。これは論文化されて当学会機関誌『倫理学年報』第67集(pp.19-29、2018年)所収のものとして5月現在既に公刊されている。 本研究計画で初めて取り扱ったのが小津安二郎だが、残存する彼の映画作品すべてに目を通すとともに、比較のため、同時代の成瀬己喜男、溝口健二、また若い世代の吉田喜重らの作品において、その画面構成に現われた時間表象を追跡した。こうした研究の一端は、 11月2日レーゲンスブルク大学で、Der Esstisch in den Filmen Ozu Yasujiros(ドイツ語)、同6日リヨン第三大学で「小津安二郎の食卓」(日本語)というタイトルで講演された。また2018年3月9日代表者も共催者の一人である国立台湾大学のコロキウム《食・文化の基底》で「食の映像・小津安二郎と成瀬己喜男」という報告を行なったが、これは、上記研究の延長線上のものである。なおレーゲンスブルク大学での講演は、同じタイトルのもとドイツ語のまま論文化されて、社会芸術学会機関誌『社藝堂』第5号(印刷中)に掲載される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学術振興会学術システム研究センター専門研究員としての仕事が本年度まであったため、やや時間がとりにくかったが、映画であるためスピード化が基本的に不可能な小津安二郎作品の観察分析をほぼ完了できたのは大きかった。その結果小津に関する研究成果公表は、30年度以降と考えていたが、上記のように初年度中に一つの論文を書くことができた。また出発時点では、はっきりしていなかった比較対照軸を固めることができたのも、今後の研究の進展に寄与すると思われる。寺山修司の研究も三沢市寺山記念館の協力を得て、進めることができたし、既に準備していたとはいえ、調査の結果も含める形で一本の論文を仕上げることができた。 上記のように小津や寺山に関する論文を書いたため、計画では初年度に予定していた漱石論を後回しにする形となった。しかし原稿は7割方はできているので、焦る必要はないと思っている。 計画に挙げたものながら残っているのは岸田劉生だが、これに関してはまだ後回しになっている。これが進展を「完全」と形容できないところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記の状況からして、基本的には、29年度のペースで進めていけば目標としている単著著書の準備を計画内で完遂できるという見込みを抱いている。おそらく一番の難関は、出版社との交渉だが、できるだけ多くの可能性を追求したいと思って、日ごろから心がけている。 もう一つ気になるのは、当初申請額から三割の減額があった点である。これは、計画にとって大きなダメージだからだ。29年度は、所属機関から配当される研究費などに余裕があったので、できるだけそちらで賄うようにして、基金の制度を活かし、本研究の予算は、半分弱繰り越したが、30年度以降は、余裕がなくなるため、計画の一部の変更を余儀なくされる可能性はある。代表者としては、できるだけ計画通りのものにしたいので、変更に関しては、30年度の進展を見つつ、慎重に対処したい。実施予定の具体的項目は、下記の通りである。 1.前年度末、所属機関が募集した国際シンポジウム助成に応募し、採択が決定したので、それをもとに7月上旬京都で国際シンポジウムを開催する。テーマは、「空間感覚の変容」。空間は、一見時間と対立するように思えるが、ここまでの考察の結果、こうした対立自体近代的イメージであって、むしろ両者の関係を考え直すことは、本計画にとってもきわめて重要だという見解に到ったため、このテーマを採用した。 2.今までの研究をテクスト化し、打診を受けているヨーロッパ諸大学で講演を行なう。11月後半を予定。 3.寺山修司に関する論考をドイツで出版される論集として公刊する。既に編者に第一次草稿を送付している。寄稿者複数からなる論集のため、遅延などもあろうが、年度内に出版される可能性はあると思われる。
|
Causes of Carryover |
8でも触れたように、申請額4141千円に対して、実際に支給されたのは2900千円、差額にして、1241千円であった。29年度は、所属機関配当の研究費などにいささかの余裕があったため、できるだけこれを使って節約に務め、30年度以降に残額を回す手段を講じた。計画をできるだけ縮小しないように遂行するためにとった苦肉の策である。なお30年度以降は、29年度のような余裕がなくなるという見込みを抱いている。
|
Research Products
(5 results)