2018 Fiscal Year Research-status Report
19世紀ドイツにおけるユダヤ学の成立に関する思想史的研究
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17K02261
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
佐藤 貴史 北海学園大学, 人文学部, 准教授 (70445138)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ユダヤ学 / 歴史主義 / 集合的記憶 / 神話 / 聖書解釈 / 文献学 / Y.H.イェルシャルミ / M.ブーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は以下の2点を中心におきながら、19世紀ドイツにおけるユダヤ学の諸問題について掘り下げた。 第一に、ユダヤ教の集合的記憶論で著名なY.H.イェルシャルミのユダヤ学批判について考察した。彼によれば、古代・中世のユダヤ人は歴史叙述に関心を寄せることはなかった。しかし、近代以降、歴史叙述がユダヤ人の思想を捉えはじめ、それによってユダヤ教は根本的な変化を被ることになった。そのさい、大きな影響力をもったのが19世紀ドイツのユダヤ学であり、とくにI. ヴォルフのユダヤ学の構想であった。本研究課題の一つはヴォルフの思想の解明に焦点を当てるものであるが、彼の思想が正当に評価されていない理由としてイェルシャルミの否定的評価が部分的に影響を与えているのではないかと考えることができる。ユダヤ学の全体像を解明するうえで、イェルシャルミのユダヤ学批判が一つの出発点になることが判明したと同時に、ユダヤ思想史のなかで記憶と歴史叙述の関係がユダヤ学とは無関係ではないこともはっきりした。 第二に、M.ブーバーの聖書解釈・聖書学について考察した。ブーバーの聖書解釈方法論において神話や歴史の概念は重要な役割を果たしている。ブーバー自身ははっきり書いていないが、このような彼の傾向は合理的なユダヤ教理解を目指したユダヤ学に対する批判であることは明らかである。ユダヤ学の歴史理解とユダヤ教の歴史理解のあいだには大きな溝があるはずだが、ユダヤ学はその違いに無自覚だったところがあり、この問題はイェルシャルミのユダヤ学批判ともつながる重要な視点である。 ユダヤ学を正確に把握するためには、20世紀のユダヤ思想が行ってきた批判を慎重に検討し、それによって覆い隠された部分を丁寧に取り出す作業が不可欠である。昨年度の方法論の問題とあわせて、ユダヤ学研究の枠組みや視角をより明確にすることができたはずである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
19世紀ドイツのユダヤ学の研究はわが国においてほとんど未開拓の領域である。それゆえ、説得力のある成果を出すためには慎重な研究が求められる。とくに(1)ユダヤ学において何がもっとも重要な関心事だったのか、(2)ユダヤ学の分析においていかなる枠組みが有効なのか、そして(3)20世紀のユダヤ思想の影響力のなかで何が隠されてしまったのかを慎重に解明しなければならない。本研究はこれら3つの視点について一定の見通しを立てることができた。それゆえ、こうした状況を踏まえて自己評価を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
この2年でいくつかの重要な視点を得ることができたので、それに基づいてL. ツンツとI. ヴォルフのテクストをさらに分析する予定である。同時に、引き続きユダヤ学の分析枠組みの洗練化とコンテクストの明確化に励みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
校費による長期の海外出張が認められたため、当初計上していた外国旅費に残額が生じた。残額については主として令和元年度(平成31年度)の物品費(関連図書の購入)に組み込み、必要資料の購入費用として活用するよう計画している。
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Remarks |
佐藤貴史「ユダヤ神秘主義」(『社会思想史事典』、丸善出版、2019年1月)pp. 580-581.
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Research Products
(5 results)