2017 Fiscal Year Research-status Report
死せる哲学者シャルル・ルヌヴィエからのフランス近現代哲学史再編
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17K02266
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
合田 正人 明治大学, 文学部, 専任教授 (60170445)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フランス哲学 / 19世紀 / 実証主義 / 新カント派 / プラグマティズム / 無限小解析 / 無限 / 共和主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はシャルル・ルヌヴィエをめぐる研究の初年度であるため、ルヌヴィエとその周辺に関する国際シンポジウムの開催に向けて以下の準備的作業を行った。 まず第一に、報告者をルヌヴィエへと導いた道筋を明確化すること。小説家プルーストの諸主題とルヌヴィエの哲学とのありうべき関連についてはすでに拙論を発表したが、もうひとつ、ルヌヴィエは社会学者ガブリエル・タルドが師と仰ぐ人物であり、ルヌヴィエもタルドを当時の最も優れた知性とみなしていた。模倣や差異をめぐるタルドの考えを微分、無限小解析という視点からルヌヴィエの哲学と比較するべく試みた。この作業は西田幾多郎とタルドをめぐる発表にも作用を及ぼすこととなった。 この点では、ルヌヴィエはウィリアム・ジェームズの師であり、パースの「現象学」をめぐるシンポジウムでこの関連についての考察を深めることができた。 第二に、当然のことながら、入手しがたいルヌヴィエの著述を閲覧し読解しなければならなかった。ルヌヴィエの著作は膨大で、ぶっきらぼうとも言えるそのフランス語文体も影響しているのだろうが、容易にその全貌を掴むことができない。本年度は夏期休暇中にフランス・パリの国立図書館での文献調査の機会を得、新百科全書の項目論文や共和国人マニュアルなど、これまで完全には目を通していなかった著述を調査することができた。 第三に、これまでベルクソン日本プロジェクトでしばしば同席してきたルヌヴィエ研究の第一人者、ロラン・フェディ氏(ストラスブール大学)、ルヌヴィエ文庫を有するモンペリエ大学のルドルフ・カラン教授とコンタクトを取り、今後のルヌヴィエ研究の展望を具体化することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の開始とほぼ同時、あるいはそれにわずかに先立って、報告者は、ミメーシスをめぐる論考のなかで、社会学者ガブリエル・タルドとシャルル・ルヌヴィエとの関連を論じることができた。また、チャールズ・サンダース・パースの「現象学」をめぐる討論のなかで、ウィリアム・ジャームズとルヌヴィエとの関連に触れることができた。更に、この第二の点に関してはジャン・ヴァールとレヴィナスをめぐるこれまでの考察でも取り上げてきた。何よりも、こうした複数の作業がいわば準備作業となってくれたため、本研究は、ルヌヴィエという未知の巨人を手探りで研究することを強いられる一方で、幸いにも幾つかの基礎的作業に基づいて開始することができたと言ってよい。この点では、ルヌヴィエ研究の第一人者であるロラン・フェディ氏が、2007年に開始されたベルクソン日本プロジェクトで度々同席した人物であったことも幸運であった。 こうした前提の上で、まずルヌヴィエの膨大な著述を出来る限り網羅的に読むことをめざしたが、夏期休暇期間中のフランス国立図書館での文献調査ではそのごく一部しか閲覧できなかったのは大変残念である。様々な経路で入手することのできた文献を引き続き読解中であり、その一方で、イアン・ハッキングのような大物哲学者が、微分の哲学という
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を受けて、まず、ロラン・フェディ氏と交渉し、シャルル・ルヌヴィエをめぐる国際シンポジウムの企画を具体化しなければならない。その際、第二共和制、第三共和政とフランス哲学という、日仏哲学会が予定しているシンポジウムとの連関も考慮し、ルヌヴィエをめぐる本邦初のイヴェントに相応しい規模と内容をそれに与えるべく努めたい。そのために、ジュール・ルキエ、ピエール・ルルー、オーギュスト・コント、オクターヴ・アムランなどの研究者との連携を密にしなければならないだろう。 第二に、ルヌヴィエの著述の読解は継続するが、ルヌヴィエの著述の邦訳がまったく存在しない現況に鑑み、ルヌヴィエ抜粋集のような抄訳を企画する。その際、特に『全般的批判』第二巻の心理学的叙述を重視したい。また翻訳という点では、フェディ氏のルヌヴィエ論に先立って、ジャン・ヴァールの博士論文『英米の多元主義哲学』の邦訳完成を急ぎたい。 第三に、初年度にはモンペリエ訪問を果たすことができなかったが、ルヌヴィエゆかりの地モンペリエの大学図書館が蔵するルヌヴィエ関連書類の閲覧をぜひ実現したい。とりわけ、根っからの共和主義者であったルヌヴィエの政治的見解を読み取ることができればと考えている。 第四に、先述したタルドとの比較では踏み込めなかった点だが、最晩年のルヌヴィエが書いた新モナドロジーと、タルドのモンドロジーとの連関を考え、更に、コレージュ・ド・フランスでの講義で、これまた最晩年のタルドがどのようにルヌヴィエを評価しているかを明らかにしたい。
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