2018 Fiscal Year Research-status Report
"Culture of Remembrance" in Post-Transitional Era: Transference of "Memoria" in Southern Cone
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17K02267
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
林 みどり 立教大学, 文学部, 教授 (70318658)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ミュージアム / 記憶 / 歴史叙述 / トラウマ / アート / ポピュリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
アルゼンチンにおける記憶空間の利用と空間の社会的な意味づけを明らかにする過程で、人権アクターの言説枠組みが参照するホロコースト言説との構造の違いを分析し、両言説の同質性と差異を明確化した。また「ダークツーリズム」化しつつあるブエノスアイレスの記憶ミュージアムの空間表象の分析を通じて、いわゆる「トラウマ論」の過剰な「使用」の問題点を析出し、展示にみられる暴力表象の不可視化への配慮と同時に、証言の展示に内在する平板化・断片化がもたらす表象上の問題点を明らかにした。これらの成果として、論文「記憶の時代における想起の政治──アルゼンチンの「記憶の場」と「記憶ミュージアム」」を上梓した。 また、人権アクターが担う歴史叙述がミュージアムにおいて可視化される際に、そこでなされる「歴史語り」がどのような「修辞」に拘束され、そこで導かれる「理解」のされかたに、いかなる問題点が現れているかの分析結果を、日本ラテンアメリカ学会東日本部会の報告「記憶ミュージアムの「語り」の構造」で報告した。 一連の分析を進めるなかで、政府や地方自治体、人権アクターによる過去の記憶の「審美的」表象化が、現行の南米(特にアルゼンチン)のポピュリズム的言説空間の生成において重要な役割を果たしているとの認識を得た。この領域はこれまであまり研究されてきていないので、今後は歴史叙述のみならず、視覚美術を中心とする領域にも分析の視野を広げていく必要があると思われる。その準備段階として、「ブレーンストーミングとしての〈ポピュリズムとアート〉」を執筆し、論点整理と理論枠の検証を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり進んでいる。記憶空間の利用や記憶化をめぐる言説の分析を通じて、(1)記憶空間の物理的利用の特質と問題点の析出、(2)ホロコースト言説との隣接関係の明示化と問題点の指摘、(3)近隣諸国(チリ、パラグアイ等)の記憶ミュージアムとの比較による言説的特性の析出、(4)人権言説と歴史叙述の相互浸透とその問題点を、それぞれ明らかにすることができた。 また、集合的記憶を媒介するポピュリズム政治の問題点を、文化論的側面から明らかにする課題については、パブリック・アートとポピュリズムの関係性をめぐる問題領域が明らかになり、今後分析を深めていくにあたっての論点整理を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の理論枠のひとつとなっているA・アスマンの記憶論において、「リコレクション」と「アナムネーシス」の概念化は重要な分析軸である。「リコレクション」的想起は自己の過去を一貫したものとして認識し、アイデンティティ確立を容易なものにする作用を有し、自己肯定を可能にする。人権侵害の記憶の想起において「リコレクション」は心理的な傷を平癒する治癒的機能を持つ。その一方で、自己同一性に帰着する「リコレクション」は、アイデンティティ・ポリティクスの主体化現象を誘発せざるをえず、現在アルゼンチンで生じている共同想起には、この機制が大きく働いていると思われる。これまでの分析で明らかにしてきたのは、もっぱらこの「リコレクション」の契機である。 こうした排除の論理を形成する「リコレクション」に対抗し、それを乗り越える想起の契機として提起されるのが「アナムネーシス」的な想起である。恥や罪の感覚と親和性を持つ「アナムネーシス」は、不意に訪れる過去のイメージや「他者の突然の訪れ」といった受動的想起として説明されもする。今後は、これまで同様「リコレクション」の社会的現象化の分析を継続するとともに、「アナムネーシス」的想起の脱主体的契機についても明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
初年度(平成29年度)に行う予定であったインタビューについては、インタビュー対象が長期不在になる等の先方の都合により、やむなく翌年(平成30年度)に持ち越すことを余儀なくされた。平成30年度には、当初から予定していたインタビューとあわせて前年度に予定していたインタビューを行ったが、現地の資料調査と合わせてすべてを行うことは日程的に困難だったため、残る調査とインタビューは31年度に改めて行う予定である。 また、インタビューや調査を通じて強く指摘された点として、ブエノスアイレス以外の記憶空間の現地調査の必要性があげられる。また記憶の「審美的」表象媒体の調査の重要性も判明した。31年度には、日程的に無理のない範囲でこれらの調査課題についても実施する予定である。
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Research Products
(3 results)