2022 Fiscal Year Annual Research Report
"Culture of Remembrance" in Post-Transitional Era: Transference of "Memoria" in Southern Cone
Project/Area Number |
17K02267
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
林 みどり 立教大学, 文学部, 教授 (70318658)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文化的記憶 / 共同想起 / ホロコースト言説 / フェミニズム運動 / #NiUnaMenos / 五月広場の母たち / 精神分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1980年代の民主化移行期からポスト移行期に入りつつある南米地域において、軍政時代に ついての「文化的記憶」がどのような「想起の政治」のダイナミズムのなかで生成し、いかなる共同想起の実践として出現し、どのような論争の位相にあるのかを考察するものであった。ローカルな集合的記憶形成と共同想起の営みを個別具体的事例において明らかにするだけでなく、同時にそれらの個別具体的な事例についての共同想起の営みが、グローバルな記憶言説とどのように切り結び、言説の領有や交渉過程で何が生みだされ何が隠蔽されるかを考察した。とりわけホロコーストなどの集合的な記憶言説が社会空間で具体的にどのように視覚化され、言説として流通し、ローカルな記憶状況のみならずグローバルな記憶状況に接合されることによって、ローカルな記憶が再文脈化されるかを明らかにした。軍政期だけでなくポスト軍政期に多く引用・参照・言及されてきた、戦後ドイツのホロコースト関連記憶研究等の事例研究との比較を通じて、南米に固有な想起のあり方の有無について検証することをめざした。また当初の計画では、現地調査を通じて、南米の共同想起におけるアイデンティティ・ポリティクスに回収されない契機の発現を分析する予定だったが、現地入りを予定していた時期にパンデミックが重なったことから現地調査が不可能となってしまったので、研究の焦点を2000年代以降に活発化したフェミニズム運動を中心とする新たな社会運動の分析にシフトさせた。その結果、南米(特にアルゼンチン)における社会的記憶化過程は、精神分析学や隣接する専門領域のアクターの社会的・文化的機能と切り離せないという新たな知見を得ることができた。
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