2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02278
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
西間木 真 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (10780380)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 中世音楽理論 / 中世音楽教育 / 音楽についての対話 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず昨年度に引き続き『音楽についての対話』(1000年頃)を伝える写本史料の校合作業を行ない、これまでに存在を確認した63写本のうち、近世以降に書写された4写本を除く全ての写本について確認作業を終えた。その結果をもとに、次に本文を校訂した。校訂作業と同時に、本エディションに基づく日本語による全訳も試みた。現在は、写本の系統ごとにヴァリアントの見直しを進めながら、apparat critiqueを作成している。 本研究で作成したエディションを、これまで一般に用いられてきたMartin Gerbert (1784)およびLucia Ludovica de NardoによるGerbert版の改定版 (2007)を比較したところ、後者が依拠しているドイツ語圏で書き換えや加筆がなされたsourcesには予想以上に多くの加筆や書き換えが含まれていることが明らかになった。例えば、『対話』理論の特徴としてしばしば言及される各楽音と旋法の対応表(Gerbert, p. 264)は、イタリア系写本には含まれておらず、史料ごとの差異が際立っていることから、もともと『対話』には含まれておらず、後から加筆されて流布したと考えられることが明らかになった。また今後、ヴァリアントを見直すことで、『対話』の伝搬経路や受容だけではなく、地域ごとの音楽教育の伝統が明らかになると期待される。 校訂作業と並行して、11-12世紀にフランスで書写された『対話』写本の受容と伝搬について検討した。その結果、譜線記譜法への移行期に南フランスから北フランスにかけての広い地域で、『対話』やアレッツォのグイドによって確立された実践的な新しい音楽理論を、古代ギリシアに由来する伝統的な音楽理論と融合する試みがなされたことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、研究目標の一つとして、『対話』の中で曲例として言及されている典礼聖歌レパートリーを各地の典礼写本と比較し、地域や時代別に音楽実践の伝統を明らかにすることを挙げた。しかし写本史料の校合作業に想定以上の時間が取られていること、複写物の解像度の問題から音符の解読が難しい史料の数が少なくないこと、さらに批判的校訂版の作成という第一の目的とは直接関係しないことから、曲例の研究については当初の計画を見直し、『対話』が執筆されたとされるミラノ近郊固有のレパートリー、および特定の写本にみられる地域固有のレパートリーについてのみ随時、エディションの注で解説することとした。そうした点から、やや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる本年は、apparat critiqueを見直し、『音楽についての対話』の新エディションを完成させる。完成したエディションおよび日本語の全訳は、ウェブ上で公開する。同時に音楽理論や曲例など本文の内容に関する注と全体の解説を執筆しながら、出版の可能性を探る。
|