2019 Fiscal Year Research-status Report
グローバルな視座から見る近代日本のピアノ製造の発展メカニズムと音楽文化
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17K02283
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
井上 さつき 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (10184251)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ピアノ / 技術革新 / グローバル / 音楽文化 / 楽器産業 / 万国博覧会 / ヤマハ / カワイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、洋楽導入後の明治期から昭和前期にかけての日本のピアノ製造に着目し、その発展メカニズムと音楽文化とのかかわりを読み解き、さらに、それを国際的な文脈に置き直す試みである。本研究の特色は、ピアノ製造を近代日本の音楽文化の展開の中に位置づけると同時に、19世紀後半の主要なピアノ製造国であった英仏独米など諸外国との関係性に留意し、国際的な楽器製造の文脈に位置づけ、統一的な視点で論じる点にある。 今年度は、万国博覧会とピアノの発展について、まず研究を深めた。19世紀後半、万国博覧会は楽器製造コンクールの場となり、ピアノ製造の新しいテクノロジーを広めるのに大きな役割を果たした。国際審査委員会による審査報告は広く読まれ、審査結果はメーカーの格付けに影響した。なかでも、1867年の第2回パリ万国博覧会におけるアメリカのスタインウェイのグランドピアノは、それまでのピアノの音の常識を一変させるものであった。当時の最先端の技術を取り入れた、一体型鋳鉄フレームに強度の強いワイヤーを交差式に張ったことから生まれる、光り輝く豊満な音色はたちまち人々を魅了し、人々の音感覚を変化させた。論文では、この万博を境にピアノ製造の地図が塗り替わり、イギリスとフランスに代わって、アメリカとドイツがトップランナーになったことを明らかにした。研究成果は論文としてまとめた。 その一方、この研究テーマを包括した研究を続け、単著として、中央公論新社から『ピアノの近代史――技術革新、世界市場、日本の発展』を刊行することができた。この本では、第1章で19世紀の国際的なピアノ事情について語ったのち、第2章以下第9章まで、世界の状況を視野に置きながら、日本のピアノ産業の成立と発展について、時代を追って論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況としては予定よりもやや遅れている。これは、2019年3月まで学内で役職についていたため業務多忙で研究する時間がなかなか取れなかったこと、また、4月以降は2冊の著書(『ラヴェル』(作曲家・人と作品シリーズ、音楽之友社)、『ピアノの近代史――技術革新、世界市場、日本の発展』(中央公論新社)の刊行を優先させなければならなかったことによる。 しかし、研究全体としては非常に良い方向で進んでいる。何より、これまでの研究成果を『ピアノの近代史』という単著にまとめて中央公論新社から出版する機会が与えられたことは、研究成果の発信という点で大変大きかった。新聞各紙(日経新聞、西日本新聞、中日新聞、東京新聞、読売新聞、聖教新聞等)で書評に取り上げられたことはありがたかった。この単行本の出版を機に、さらに新たな研究の可能性が生まれた。 また、論文集『万博ー万国博覧会という、世界を把握する方法』(佐野真由子編、思文閣出版、2020年7月出版予定)の一篇として刊行される論文「万博と『ピアノ』の誕生」を執筆したことも、19世紀のピアノ製造の発展をグローバルに捉え直すという点で、研究全体の幅を広げるのに役立った。 残念なのは、2月以降、計画していた国内外の調査がコロナ禍により不可能になったことである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実施できなかった国内外の調査研究を主軸に考えたいところだが、コロナ禍のため、国外調査の予定が立てられないことがネックである。計画ではミニシンポウムとレクチャーコンサート等の開催も予定したが、今のところ、開催の見込みが立たない。 国外調査については、秋冬以降に実施する。国内での移動が可能になり、図書館等も少しずつ開館しているので、様子を見ながら国内調査を始める。また、日本楽器製造(現ヤマハ)の重役だった箕輪焉三郎が残した資料(沼津市明治史料館所蔵の旧幕臣箕輪家資料)について集中的に研究し、成果発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
元々、研究自体が遅れていたことに加え、コロナ禍のため、予定していた国外調査が不可能になってしまったことが大きい。今年度は沼津市明治史料館に所蔵されている箕輪家資料を集中的に翻刻し、内容をまとめて刊行することを研究の柱とする。翻刻のための謝金や出版費用、郵送料などが発生する。さらに、関係図書や関係資料の購入を進める。また、国内調査を積極的に行う。秋冬以降、国外渡航が可能になれば、国外での調査を行う。
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