2022 Fiscal Year Annual Research Report
The Development Mechanism of Modern Japanese Piano Manufacturing and Musical Culture from a Global Perspective
Project/Area Number |
17K02283
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
井上 さつき 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 名誉教授 (10184251)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ピアノ / 楽器産業 / グローバル / 音楽文化 / 国産 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、東京都港区所有の「九条家寄贈グランドピアノ」について調査し、当楽器が「日本楽器製造株式会社製初期グランドピアノ」として港区有形文化財に指定される際に専門的立場から助言を行った。調査を通じて、蒔絵を施されたこのピアノが第五回内国勧業博覧会に際して作られ、同博覧会で昭憲皇太后のお買上となり、皇太子妃に贈られた楽器そのものであったことが判明した。今後、日本のピアノ製造と漆工芸とのかかわりという新しい視点からの研究へ通じる第一歩となった。 一方、コロナによる海外渡航規制が緩和されたので、10月から11月にかけて、パリに行き、主にフランス国立図書館で、特にフランスの20世紀のピアノ産業に関して調査を行った。19世紀に先進国であったはずのフランスのピアノ産業が20世紀後半に急速に衰退した原因を探るべく、業界誌等の調査を行った。フランスの主要ピアノメーカーの文書類は現在、パリの音楽博物館に収蔵されており、今後、ピアノ産業の日仏比較を試みる予定である。 本研究はコロナ禍のため延長を重ね、当初の3年の予定が6年になった。もともと「洋楽器導入後の明治期から昭和前期にかけてのピアノ製造に着目し、その発展メカニズムと音楽文化のかかわりを読み解き、さらにそれを国際的な文脈に置き直す」ことを目的としたものであった。もっとも大きな研究成果としては、単著『ピアノの近代史――技術革新、世界市場、日本の発展』(中央公論新社、2020)を刊行したことである。この本をまとめるに当たっては「ピアノを通して、世界を見る」という意識をつねに持つように心がけた。文化に根差した製品である楽器を、異なる文化を持つ国が取り入れることは困難が伴うが、日本ではそれが遂行されたばかりか、短期間のうちにその楽器を量産し、明治期から諸外国に輸出するに至っており、それが戦後の急成長の土台となったことを本研究で明らかにできた。
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Research Products
(2 results)