2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02284
|
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
竹内 有一 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 教授 (60381927)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇野 茂男 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (70554327)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 常磐津節の伝承 / 歌舞伎浄瑠璃 / 浄瑠璃正本 / 和紙と木版本 / 虫損補修 / 希少詞章の翻刻 / 三味線音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、重要無形文化財である常磐津節(歌舞伎浄瑠璃)の伝統を再検討し、研究と実演の現場を結びつけた、伝統芸能の新たな展開を目標とするものである。伝承実態と歴史的通説を洗い直し、伝承が途絶えた・または途絶えつつある演目の復活と、演奏手法の復元と新工夫を試みることをめざす。それを実現するための最も基礎的な段階を整備するため、新出稀覯の初演資料である常磐津家元所蔵の常磐津正本(浄瑠璃本)の虫損修繕とデジタル化(撮影と翻刻)を進め、次のような実績を得た。 (1)研究の前提となる浄瑠璃本の書誌的研究:平成28年度京都市立芸術大学特別研究助成により実施した修繕(全2巻:計293丁)の成果を踏まえ、未修繕の全6巻の損傷状態を精査し、平成29年度に修繕を行う全2巻を選定した。その全2巻に含まれる演目について、上演年月と名題を考証した。 (2)常磐津正本の特性を踏まえた修繕の方法と技術の検討:虫損の状態をもとに、修繕に適した和紙の性質を考察し、黒谷の和紙生産者とともに漉く和紙の仕様について打合せを重ね、手漉きの和紙を試作した。1丁ごとに番号登録を行い、撮影および裏打ち作業時に必要となる番号入りのラベル・付箋を作成した。資料の解体、クリーニング、撮影、撮影データの保存と整理、糊の作成、裏打ち、製本等を進めた。 (3)復元的演奏手法の検討に向けた準備:復元的上演をめざす演目の候補選定と、詞章・音楽・演出案の検討に向けた準備を進めた。新出正本の翻刻と内容の精査を行い、復元的演奏の可能な演目を探した。現行レパートリーの伝承実態を踏まえ、演奏家の助言を仰ぎながら、復元的演奏を行う演目候補の絞り込みに着手した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)書誌的研究と修繕作業:計画通り、全2巻の修繕と調査を済ませた。巻選定の基準は、初演年の古い演目が含まれる巻、稀覯本が多い巻、復曲候補と見込める演目が多い巻を優先した。1巻目が計54丁・13演目、2巻目が計56丁・14演目であった。虫損が著しく本紙を開くと破損する状態なので、修繕には慎重と手間を要したが、約10日にわたり計13名のアルバイトを動員したことで、おおむね順調に進展した。書誌的調査は、研究代表者の個人研究を蓄積した正本所蔵データベースを活用したため、きわめて順調に進展した。 (2)修繕の方法と技術の検討:研究分担者が中心となり、本学美術学部保存修復専攻の院生が修繕作業に参加することで、より弾力的な調査研究を進めた。京都府指定無形文化財の黒谷和紙共同組合(京都府綾部市)の協力により、和紙の生産者の観点から修繕に使用する望ましい和紙の特質を十二分に検討した上で、その試作と選定を行うことができた。 (3)復元的演奏手法の検討に向けた準備:復曲候補の選定に際しては、大量の正本の翻刻と読解を迅速に進めなければならない。そのため本研究と併行し、別の枠組みで4~5名の勉強会(日本伝統音楽研究センター共同研究の一部)を設け、そこでも作業を進めた。約10演目の翻刻読解を終え、どのような演目をどう復曲するか意見交換に着手した。演奏手法の検討は、演奏家との共同作業が必要であることから、今年度はその手始めとして、常磐津節および長唄の若手演奏家数名(関西および東京在住)と合同による解説付きの演奏会を12月に主催し、その経過の中で復曲にかかる意見交換と事例の収集に着手した。また、常磐津節の古典エッセンスを活用した新作子ども歌舞伎の作曲・編曲・演奏に携わる機会を得て、復元的演奏手法を検討する実践的現場を経験することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)修繕の済んでいない全4巻の損傷状態を精査し、平成30年度に修繕を行う全2巻を選定する。修繕に関わる計画・方法を、平成29年度と同様に行う。修繕の方法と技術を振り返り、資料の特性を踏まえた独自の方法論と技術に着目しながら、作業の記録を整理する。 (2)正本など古資料を活用した復元的演奏の方法について、演奏家とともにミーティングを開いて考察を重ねる。復元候補の演目について、伝承の途絶えた部分、伝承の不確かな部分がある場合は、それを補う方法も検討する。正本を活用した考察に際しては、現行伝承との詞章の異同、語り分けの指示(太夫の演奏分担、常磐津以外の種目との掛合演奏の分担法)、語り・三味線のパターンや表現を表示する譜(朱)や口三味線の書き込み、役者・衣装・大道具など音楽以外の要素や演出についてわかること、等に留意する。 (3)29年度に選定した復元的上演を検討する演目の複数候補について、さらに吟味を重ね、その後の調査研究の進展によって追加できる演目を候補に追加する。
|
Causes of Carryover |
【理由】消耗品(手漉き和紙の製作購入費)が計画よりも廉価であったこと、旅費(遠距離の出張)が予定より少なかったこと。 【使用計画】研究協力者の補助で行う作業(補修を終えた史料の整理、浄瑠璃本文のデータ入力)に、予想以上の時間と労力を要しているので、研究協力者の分担する作業量を増やし、人件費にあてる。また、研究協力者に貸与しているパソコンが老朽化のため起動に時間がかかるなど不便を生じているので、パソコンの購入も検討する。
|
Remarks |
【演奏会主催、演奏・解説】 2017年12月9日、解説「都の鬼二題『戻橋』」、演奏:常磐津節「戻橋」、長唄・常磐津節研究会「双翼会」主催(同人:今藤政之祐・杵屋浩基・常磐津都代太夫・常磐津若音太夫(研究代表者))、会場:安井金毘羅宮金比羅会館(京都市) 【編曲・作曲・演奏】 2018年2月25日、新作浄瑠璃「伏見の桃太郎 ゆかりの鬼退治」、第3回伏見子ども歌舞伎、会場:藤森神社参集殿(京都市)
|
Research Products
(1 results)