2017 Fiscal Year Research-status Report
Modal System of Improvisation in Arabic Classical Music
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17K02291
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
松田 嘉子 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (80407832)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | タクスィーム / マカーム / ウード / アラブ音楽 / トルコ音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、アラブ古典音楽の即興演奏タクスィームに関し、特にマカーム(旋法)の構造と展開について研究を推進した。現地調査はマレーシアで行なった。 研究成果展として公開講座「マカームとラーガ2」(多摩美術大学・平成29年12月)を開催した。東京音楽大学小日向英俊氏を講師に迎え音楽家による実演も伴いながら、今回はアラブ音楽の即興演奏「タクスィーム」とインド音楽の「アーラープ」の比較研究を行い、討議した。アラブ音楽ではマカームを転調しながら展開する点がインド音楽とは大きく異なり、観客にもその理解が共有された。他にも、「琵琶とシルクロード」(文京シビックホール・平成29年11月・薦田治子武蔵野音楽大学教授企画)を始めとする多くの公演や講演において、アラブ音楽の真髄であるマカームの構造を実演し解説することに努めた。 平成30年3月、ビレン・イシュクタシュ博士を中心とするトルコの演奏家・研究者の企画によりマレーシアで開催されたインターナショナル・シェリフ・ムヒッディン・タルガン・ウード・フェスティバル(クアラルンプール・ユヌス・エムレ研究所)に出演し、自作曲とタクスィームを演奏し好評を博した。シェリフ・ムヒッディン・タルガンはアラブ音楽、トルコ音楽両方にとって重要な役割を果たした音楽家である。その名を冠したウード・フェスティバルでは、トルコ音楽とアラブ音楽の比較研究が行われ、タクスィームの表現や多様なプロセスを検討した。またマレーシア、シンガポール、インドネシアなど東南アジア諸国にウード音楽が浸透している現状を把握し、アラブ音楽圏の広がりについても認識を新たにする貴重な機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の計画どおり、過去の大音楽家たちのタクスィームを聴取しその分析に注力し、代表的なマカーム(旋法)について、伝統的に受け継がれてきた典型的フレーズ、展開しやすい方向性や行程等が見えてきた。また、タクスィームを推進していくにあたって重要なのは一定の律動、リズムであることを確認した。タクスィームでは個人的な特徴や創造が尊ばれ、許容された自由度の中で様々な技巧や表現が革新されていくわけだが、安定したリズムなくしては何を行なっているのか理解しづらいものになる。マレーシアのウード・フェスティバルにおいてもトルコ人を始め様々な演奏家のタクスィームを聴取し、自身でもタクスィームを実践し評価されて、そのことを確信するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きタクスィームの芸術的特質を研究する。歴史的大音楽家たちの録音に加え、現在活躍する音楽家たちの演奏も多く聴取し、プロトタイプと個人的独創性の関係、技巧的更新の様相等、現在的特質についても考察する。自分自身、これまでも様々な国際音楽祭で第一級の音楽家たちと出会った経験が何物にも変え難い研究の機会となったが、今後も実際に多くの音楽家と交流して互いに刺激を与え合うのは、本来「生の、その場その瞬間に立ち上る」ものである即興演奏タクスィームの研究にとってとりわけ重要である。 アラブ古典音楽にとって、タクスィームにおいても、作曲された楽曲においても、マカーム(旋法)の表現が最も重要なものであることは言うまでもない。20世紀になって記録され出版されるようになった古典楽曲集やメソッド(教則本)も参照しながら、マカーム分析を進めて行く。また音楽家が体得し実践しているマカームの構造や特質を、音楽家以外の人にも理解できるよう叙述する方法を探求して行く。
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Causes of Carryover |
(理由) 次年度に使用する研究費が生じた理由は、平成30年3月後半にマレーシアへの調査出張を行ったので、その旅費が平成30年度へ計上されたためである。 (使用計画) 平成29年度残額と次年度の研究費は、平成30年3月のマレーシア出張旅費の精算及び平成30年度の調査旅費(アラブ音楽関連領域)、機器備品やソフトウェア、図書音源資料の購入に使用する予定である。
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