2017 Fiscal Year Research-status Report
The Dawn of German Modernism: Aesthetics and History of Artworks, Theory, Patronage
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17K02302
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
仲間 裕子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70268150)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ドイツ・モダニズム / 「ドイツ100年」展 / フーゴ・フォン・チューディ / ユリウス・マイアー=グレーフェ / 旧国立美術館(ベルリン) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の基本資料となる「ドイツ100年展」(1906)展覧会カタログの調査をベルリン芸術図書館で行った。また当時のモダニズム動向の理論的支えとなったユリウス・マイアー=グレーフェの『近代美術発展史』(1906)を精読し、展覧会事務局長として中心的役割を果たしたマイアー=グレーフェが作品をその色彩描写から解説した展覧会カタログとの理論上の関係性を調査した。10月には「国際ワークショップ:ベルリンのモダニズム―20世紀前半のメトロポリスの表象―」(主催:立命館大学国際言語文化研究所)を開催し、共同研究者であるイーアン・ワイト氏(エディンバラ大学教授)を招聘して、「文化的大都市」としてのベルリンに焦点を置き、モダニズムが発生する環境について報告、討論がなされた。ドイツ・モダニズムの発端として申請者が位置付ける「100 年」展は、国家の威信として機能した古典主義建築の旧国立美術館(ベルリン)で開催されたが、その旧国立美術館の1876年の設立以来はじめて、異文化の芸術を「国家的」作品と並列展示した画期的な展覧会が2017年に開催された。ここにおいて、「100年」展を組織した館長フーゴ・フォン・チューディの国際的視点が結実したように考えられる。この関連企画に申請者は招聘され、ドイツ・ロマン主義の部屋に展示された江戸時代の屏風画に関して、「カスパー・ダ―ヴィト・フリードリヒと日本の画家の風景像における文化科学的比較」を講演し、現在の館長、ラルフ・グライス氏並びにドイツの研究者たちと研究交流できたことは収穫であった。 また2017年度の国際美術展ドクメンタは「アテネから学ぶ」というスローガンを掲げて当地で開催されたが、本研究における古代ギリシア美術=理想主義優位のドイツ美術からモダニズムへの劇的な変化を知るうえで重視し、アテネの諸機関で古典美術・建築の原点を見学し、資料調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「ドイツ100年展」のカタログの調査では、まず表紙がドイツ近代産業デザインの第一人者、ペータ・ベーレンスによる、モダン的傾向のなかに静謐さが漂う、古典とモダンの折衷的な様式であることを確認した。同じくベーレンスによる展示空間は、壁は明るい白で塗られ、幾何学的な規則性をもった黄色と灰色の装飾文様が施されており、「100年」展は外観デザインと内容においても新しい時代の幕開けとして位置づけられる。カタログ第一巻は、チューディによる展覧会の意図・目的、作家と作品の考察、そして主要作品の図版から構成され、第二巻は1200点の図版が掲載され、マイアー=グレーフェの解説が記されている。この「総合大カタログ」は量的にも質的にも19世紀ドイツ美術の浩瀚な「百科辞典」といえる。「100年」展では、一階にリーバーマン、ベックリン、フォイアーバッハ、マレース、トゥリュープナー、ライブル等当時のドイツ画壇の中心的役割を担う画家、二階にはベルリンとミュンヘンの画家の作品群が並び、連邦国家としてのドイツの特徴を反映した展示であった。 カタログにおけるチューディの主張は、アカデミーの弊害と大衆の近代美術への無理解である。この点に関しては、展覧会企画に協力したハンブルク美術館館長アルフレート・リヒトヴァルクの『ディレッタンティズムの目的と道(1894)など大衆に向けた芸術愛好の提唱が重要であると考える。 マイアー=グレーフェのカタログにおける物語性を排した徹底的な色彩解説は、当時のドイツにおける「印象派的な色彩力へと向かう確かな発展の出発点」(リーバーマン)とする印象派受容とも大きく関わっている。マイアー=グレーフェは「100年展」の前年、「ドイツ的画家」ベックリンの演劇性とペーソス的特質を批判した近代美術論争を展開しており、ドイツのモダニズムの発展経過には彼の理論を重視すべきかと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、資料調査を主に行う予定で、とくに近代美術のパトロンたち、ベルリンのアルンホルト、メンデルスゾーン、ミュンヘンのシュテルンハイム、ハイメルンの資料を旧国立美術館、芸術図書館(ベルリン)、またミュンヘンの中央美術史研究所で行う。なかでももっとも影響力のあったパトロン、アルンホルトに関しては、彼が設立に貢献したフィレンツェやローマの美術史研究所でも資料調査を行う予定である。美術館-パトロンー画家の三様の立場でモダニズムの展開を考察する。9月に渡欧する予定である。 また、2019年度には、旧国立美術館館長グライス氏を中心に本研究テーマに関連する研究者をドイツから招へいし、国際シンポジウムを立命館大学で開催する予定であるので、ベルリン、ミュンヘンを中心に研究交流し、ドイツモダニズムの黎明期の諸相を総合的な観点から探求していく。
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Causes of Carryover |
次年度にドイツでの長期の資料調査を計画しているため、渡航費・滞在費などの費用に加算する。
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Research Products
(7 results)