2017 Fiscal Year Research-status Report
上演芸術における「文化の編み合わせ」:1920年代パリの日本人アーティスト
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17K02304
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Research Institution | Osaka University of Arts |
Principal Investigator |
長野 順子 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (20172546)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 文化の編み合わせ / 前衛劇運動 / 仮面劇 / 人形劇 / オリエンタリスム |
Outline of Annual Research Achievements |
1920 年代パリの前衛劇運動への日本人のアーティストの関与の状況について、以下のような調査と研究を行った。 (1)仮面や人形振りを強調するフランスの前衛劇の系譜を辿り、原初の非日常空間の現出によって本来の演劇的エネルギーの復活を図ろうとした試みを考察した。その際、G.クレイグの「超人形」概念や、モダンダンスの創始者らによる新たな身体表現の創出も考慮に入れた。 (2)フランスへの調査旅行では、まずパリのフランス国立図書館BNFにおいて、1927年に上演されたフランス語版『修禅寺物語』Le Masqueについての記録や新聞での批評記事等を調査した。また当時の劇場に関する資料調査を行い、ヴュー=コロンビエ劇場での「東洋の舞踊と歌」の公演における日本人(瓜生と芦田)の出演記録を確認した。 ナントでは京都で予定しているシンポジウムのために、ナント市立図書館の貴重資料室及びナント市立美術館において資料調査を行い、講師として招聘するナント大学准教授パトリス・アラン氏と打合せを行った。 (3)2018年3月10日にシンポジウム「クロード・カーアンとその時代」をアンスティチュ・フランセ関西・京都稲畑ホールにて開催した。主旨説明のあと、前衛芸術運動のなかでのカーアンの独自の活動について研究者2名の報告があり、フロアとの活発な質疑応答もあった。またこの機会に講師の一人アラン氏と再び情報交換を行い、1920年代の前衛運動における日本人の関与について、今後の研究の必要性を確認した。 (4)同3月17日に広島大学で開催された日本美学会第317回研究発表会のシンポジウム「人形あるいはヒトガタ(anthropomorphos)の魅力 ―人形・彫刻・フィギュア等の境界を越えて―」で、「自動人形の歌と踊り」というタイトルで舞台上の人形の動きについての発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度までの科学研究費研究「セルフポートレートと演劇性:クロード・カーンと前衛劇の交差」(課題番号26370097)を進めるなかで確認できた、反自然主義・反リアリスム的な前衛劇運動への日本人舞踊家や俳優らの関与について、多様な観点から調査・情報収集を行うことができた。 とくに、2018年3月に日仏のカーアン研究者を迎えて「クロード・カーアンとその時代」というシンポジウムを開催したことは、大きな成果であった。(今後も日本でのクロード・カーアン展の実現に向けて活動を続ける予定である。)その講師の一人ナント大学のアラン氏との研究交流からも、19世紀末前後のジャポニスムにおけるだけでなく、1920年代を中心とする前衛芸術運動に日本人アーティストが関わっていた具体的状況がより明らかになってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、前衛劇・実験劇に参加した日本人アーティストである小森敏、瓜生靖、松山芳野里らの活動状況についての調査を(小森、松山の帰国後の教育活動も含めて)行う。 とくに元歌舞伎役者の瓜生のプラトー劇場での「日本人le Japonais」役の人形的な演技や女性役担当について調べる。その瓜生が「狂女」役で参加したフランス語版『修禅寺物語』公演については、現在ある数少ない論考を参照しつつ諸資料を捜索し、原作との比較も含めて詳細を明らかにする。その際藤田嗣治が担当した舞台美術に関しても、当時の藤田の活動――バレエ・スエドワの舞台装置や衣装の仕事など――と合わせて調査する。 小森の舞踊や未来派劇場の写真を撮影し、フランス語版『修禅寺物語』上演にも関わった写真家中山岩太のパリでの仕事について、帰国後の彼の活動とも関連させながら調査する。 また小森が洋行前に所属していた「帝劇歌劇部」に同じく所属した後、ドイツからロンドン、ニューヨーク、ハリウッドと活動の拠点を移していった伊藤道郎の舞踊修業及び舞踊公演の軌跡を、小森との共演も含めて辿る。伊藤の活動と関連して、彼の舞台写真を撮影した当時アメリカ在住の写真家宮武東洋の仕事についても調査する。 さらに少し遡り、パリ万国博覧会時の川上音二郎・貞奴らによる日本の伝統舞踊をもとにしたパフォーマンスが、当時のヨーロッパ演劇界や舞踊界にもたらしたインパクトに関しても、E.フィッシャー=リヒテによる概念〈演劇の再演劇化〉――古代・東洋演劇への回帰――や〈文化の編み合わせ〉――異文化間の相互作用――を参照しつつ再考察を試みる。
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Causes of Carryover |
小森敏を含む舞踊家たちの最初期の活動として山田耕筰とともに試みていた「舞踊詩」に関わる文献資料を、平成29年度に収集する予定であったが、その購入準備が少し遅れたので、平成30年度にこれらの資料を入手して、「舞踊詩」の理念と実践についての具体的な調査を始める予定である。
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Research Products
(5 results)