2018 Fiscal Year Research-status Report
日米文化・芸術交流に果たした日本人留学生の役割に関する調査研究
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17K02312
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小野 文子 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10377616)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | チャールズ・ランマン / ハドソン・リバー派 / 吉田清成 |
Outline of Annual Research Achievements |
1871年から1882年までの間、ワシントンD.C.の日本公使館に秘書として勤めたチャールズ・ランマンと当時の在米日本人との関わりについて調査を行った。また、前年度にアメリカのゲッティ財団において調査を行い、ランマン邸の競売と遺品に関する資料を収集したことから、資料の整理、分析を行った。その結果、日本人との関わりだけでなく、これまで本国アメリカでもほとんど明らかにされてこなかった、ランマンのハドソン・リバー派の画家として活動の実態、画家たちとの交友関係、制作作品についてもある程度の知見を得ることができた。そこで、19世紀後半から20世紀初頭にかけての所蔵記録を頼りに、スミソニアン協会アメリカン・アート・ミュージアム、ナショナル・ギャラリー(ワシントンD.C.)に所蔵について照会した。さらに、ランマンと交流のあったハドソン・リバー派の画家たちに関する文献、資料調査を行い、19世紀初頭から後半にかけての、アメリカ美術の変遷の中でのランマンの位置づけについて検討した。 以上のような調査、資料収集、分析から、初代駐米公使森有礼との関係は思わしくなかったが、1874年に公使に着任した吉田清成とは公私にわたって親しく、ランマンが吉田に絵画を教えていたことが明らかとなった。さらに、吉田の作品は京都大学総合博物館に収蔵されていることが分かり、同博物館において調査を行った。吉田は、ハドソン・リバー派の画家が好んで描いたハドソン川流域やその近郊の避暑地に出かけ、スケッチして油彩画を描いており、彼の作品の多くは、ランマンが数多く描いた風景画のサイズとほぼ同じであることが分かった。通常、ハドソン・リバー派の作品は大画面に描かれることが多いが、ランマンは著述家でもあったことから、多くの挿絵風の風景画を描いており、趣味としてランマンから絵を学んだ吉田も、こうした小品を描いていたことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画にそって、おおむね順調に進展している。ただし、研究計画で示していた川村清雄については滞米期間の資料がランマン関連資料にも残されておらず、代わりに吉田清成に関わる資料を見出すことができたため、調査対象を吉田清成とした。しかし、日系交流黎明期の人的、文化的交流という本研究のテーマに沿ったものであり、研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、団琢磨、伊沢修二、山川健次郎の留学期に関わる資料調査を行う予定である。また、資料調査、収集を進める中で、留学生たちのキリスト教との関りも重要であったことが見えてきた。もともと士族階級に属した留学生が多い中で、彼らがどのようにキリスト教を理解し、受け入れたのか(あるいは受け入れなかったのか)、そして、そのことが文化、芸術の交流にどのような関りがあったのかについても、資料調査を行う。モダンアートにおいては、とかく宗教からの乖離が指摘されてきたが、こうしたメンタリティーは異文化交流において見逃せない重要なポイントであると考えている。
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Causes of Carryover |
研究は順調に進んでおり、遅延や大きな計画変更は現時点では見込んでいない。今年度は海外調査を予定していたが、昨年度に収集した資料が豊富にあり、その整理、分析を行うことで、十分に研究成果を上げることができた。そこで、今年度は資料の整理、分析を中心に研究を進め、次年度に海外調査を延期することにしたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、平成31年度請求額と合わせて海外調査時の旅費に使用する予定である。
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