2019 Fiscal Year Research-status Report
日米文化・芸術交流に果たした日本人留学生の役割に関する調査研究
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17K02312
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小野 文子 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10377616)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日米交流 / 留学生 / ジャポニスム / 日本画 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、まず日米交流黎明期における日本人留学生の現地での生活や活動について当時の新聞記事等を中心に調査した。アメリカに馴染もうとしていた彼らが、ジャポニスムへとつながるような強いインパクトを直接的に与えるような文化的活動を行ったという事実を確認することはできなかった。しかしながら、19世紀のアメリカにおけるジャポニスムや日本美術コレクションは、主にボストン、あるいはニューヨークを中心として語られてきたが、ニューヨークとボストンの中間に位置するコネチカット州のニューヘブンにも山川健次郎などの多数の日本人が留学しており、イエール大学では、アディソン・ヴァン・ネイムが1871年から中国語と日本語を教え、1876年には古生物学者のオスニエル・チャールズ・マーシュの寄付により2700点に及ぶ日本の木版本が収蔵されていることが分かった。そして、これらのことに日本人留学生が関わっていたたことから、今後さらに調査を進めたいと考えている。また、同大学には、地理学者のミリセント・ドット・ビンガムが日食観測のために1896年に来日した際に購入したと考えられる明治の工芸品等が収蔵されており、ジャポニスムとの関連から今後調査研究が必要であると考える。 さらに、1870年代から20世紀初頭までの新聞記事を追っていく中で、20世紀初頭の岡倉天心や横山大観、菱田春草などのアメリカにおける活動についての記事を見出すことができた。一見すると近代化を目指して1870年代に渡米した初期留学生たちとこうした作家とは関わりがないように思える。しかし、帰国後日本の近代化を背負った留学生たちの様々なネットワークにより、19世紀後半に急速に広まったグローバリズムの中で、ジャポニスムを超えて、「国粋」ではなく「グローバル」な「日本」を目指した「日本画」が生まれた一端を垣間見ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展している。日米交流の黎明期、1870年代に留学した日本人の多くは日本の近代化を目指して学ぶことを目的として渡米したこと、また例えば団琢磨や津田梅子などは幼く、文化的背景を異にするアメリカ人に対して、日本文化についての情報を発信することができる準備ができていなかったことから、直接的に彼らの言動がアメリカにおける日本美術の流行に関わっていたという資料を見出すことはできていない。例えば、山川捨松の場合には、日本語や日本人としての文化を忘れないように、とのことで、同時期に留学していた兄の山川健次郎が彼女に定期的に会うようにしていたことなどからも、当時彼らがどのような状況にあったのか想像することができる。しかしながら一方で、彼らが在米中に築いたネットワークにより、帰国後に様々に活動の場を広げ、そのことが結果として日本の文化、芸術をアメリカに発信することになった、ということが少しずつ明らかとなってきた。また、これまでのジャポニスム研究で注目されていたボストンだけでなく、ニューヘイブンにも多くの日本人が留学していたことから、同地で日本に関するコレクションや研究が進められており、19世紀後半における日米の文化交流において重要な位置を占めていたことが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は研究のまとめを行う。特に、ニューヘイブンについては、今後新たな研究課題とする必要がある膨大な資料、コレクションがあることから、これまでの研究の経緯と照らし合わせて、今後の課題として検討していく。
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Causes of Carryover |
研究のまとめを行うにあたり、文献取り寄せ等が必要となったが、海外発行の文献を入手するのに時間がかかり、予算を繰り越して研究のまとめを行うことにした。
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