2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02315
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
佐々木 守俊 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (00713885)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 仏像 / 像内納入品 / 心月輪 / 仏性 / 不動明王 / 愛染明王 / 本地仏 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は心月輪の像内納入に関する研究を中心に進めた。具体的には①作品(仏像および像内納入品、関連する絵画史料)の実査と考察、②文字史料の収集および記述内容の分析をおこなった。 当初の目標としては、心月輪研究における重要な絵画史料である『阿字義』(藤田美術館蔵)の実査を計画していたが実施できなかった。一方で文中3年(1374)の個人蔵不動明王坐像および像内納入品を実査する機会を得た。本像は心月輪を納入する作例ではないが、紙本着色愛染明王像をはじめとする膨大な物品を像内に納入しており、南朝文化圏での造像が明らかなことも加え、仏像の中にさらなるほとけのイメージを納入することの意義を考察するうえでの重要作例と位置づけられる。また、実査には至っていないが、広隆寺聖徳太子立像や与喜天満宮天神坐像を考察対象に加えることで、心月輪研究の発展の方向性が見出せた。これら2像には本地仏の図像を線刻した銅鏡が納入されており、納入品によって本来の仏性を象徴したものと位置づけられる。ここに見る垂迹像と鏡像の関係は、密教像と心月輪の関係を考察するうえで重要な示唆を与えてくれ、仏像制作における身体観の認識の解明にも寄与する視点を提供してくれるものと期待される。 文字史料の調査は密教経軌・事相書、貴族日記、願文類を中心におこない、国立歴史博物館本『転法輪鈔』などに重要な記述を見出すことができた。これらは従来の像内納入品研究では使用されていなかった史料で、実作品から得られるデータと合わせ考えることで、心月輪のあり方をより鮮明にすることが可能と考えられる。加えて、密教の行者による五相成身観の達成を象徴する胸中の月輪に関する記述を収集した。仏像の心月輪は行者の胸中の月輪と呼応する存在とされ、礼拝者の側の月輪に注目することは、仏像への心月輪納入の根底にある信仰を問い直すことにつながるため、今後の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
個人蔵不動明王坐像の実査によって南北朝時代の像内納入品の多様性を検証できたことは、心月輪とともに小仏像の納入も考察対象とする本研究の進捗にとって有意義だった。また、当初計画の段階では密教像には注目していたものの聖徳太子像や神像は視野に入っていなかったが、これらに注目することで、本研究の目的を仏像制作と仏身論の関係の検証と位置づけ直すことができたのは大きな進展だった。 心月輪研究に使用される史料はほぼ固定していたが、近年公刊された史料を考察対象に加え、既知の史料も別の角度から見直すことで、新たな視点を持つことができた。特に、平成29年度に見出した史料には、心月輪納入の事実のみならずその信仰背景をものがたるものがあり、執筆予定の論文で新知見として提示したい。ただし、現時点では論文の投稿には至らず、平成30年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に続き、心月輪納入に関する調査・研究を続行する。心月輪を納入する仏像は多いが、肖像彫刻や神像も検討対象とし、仏身論の問題も視野に収めつつ考察を進める。文字史料の蓄積は現時点ですでに進んでいるが、総合的な理解に至るためにはさらなる史料の博捜が必要であり、願文や唱導、書状や和歌など、従来は十分に注目されてこなかった史料群にも目を向けることとする。以上の考察を踏まえ、学術雑誌への論文投稿を今年度の目標とする。並行して、心月輪納入に関する研究から得られた知見を小仏像納入の場合にも適応し、「いかに仏性を造形化し、仏像の像内空間にあらわすか」という問題の解明につなげてゆきたい。
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