2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02316
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
安嶋 紀昭 広島大学, 文学研究科, 教授 (40175865)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 絵画 / 密教 / 図像 / 寺門 / 新羅明神 / 園城寺 / 天台 / 美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
園城寺の重要文化財絹本著色新羅明神像(一幅)は、画面中央に大きく新羅大明神を配し、その下方左に般若、宿王両菩薩を並べ、右方に火御子を表し、上部に小さな月輪中の文殊菩薩を置く。 中尊顔貌の線質は、起筆に打ち込みこそあるものの決して筆を捏ねず、短いながらも素直で粘り強さがある。そのおかげで収筆に至るも力を保ち、妙な流れや乱れが生じない。それは太目の衣文線でも同様である。こうした特徴は、14世紀第1四半期の葛川明王院の不動明王二童子像や京都国立博物館の焔魔天曼荼羅を彷彿とさせ、本図の制作年代を示唆している。 ところで本図の最大の問題点は、中尊と周囲の尊像に対する画家の描写態度の相違にある。線質は共通するから画家は同一人にも拘わらず、例えば衣の金泥文様が中尊では一々のモティーフに整合性を認め得るのに対し、般若菩薩のそれは何を文様化したのか不分明である。衝立も両菩薩にこそ山水画があるが、火御子のそれは無地である。中尊の入念な描写に比して、その他の尊像には割に淡泊なのである。 中尊は右手を前方に突き出し、左手は胸元に寄せる。しかも左手の持物錫杖の柄は長く、右足先から、反り返った背凭れの左奥へと斜めに通っている。右足は前方に踏み出し、逆に左足は上げて股間に引き付ける。腰掛けには、背凭れ背面から座面を通り足下まで、長くクユを敷く。これらの要素が一貫して希求するのは三次元的な奥行き表現であり、それが本図で成功しているか否かは別問題として、この表現上の目的が他の尊像には全く見当たらないことが、両者の印象に著しい違和感を覚えさせられる原因であろう。 本図には、拠るべき大陸請来の独尊の新羅明神像があった。さらに、例えば山王曼荼羅のような神仏習合の図から他の尊像を抽出し、本図の構成を醸成した。鎌倉末におけるその思想的機縁の解明こそが、本図の存在意義を解明する鍵と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、日本印度学仏教学会第68回学術大会(平成29年9月3日、花園大学会場)において口頭発表した宝土寺所蔵絹本著色不動明王二童子像(一幅)のほか、やはり宝土寺の新出本である絹本著色宝冠阿弥陀三尊来迎図(一幅)、法蔵寺所蔵重要文化財絹本著色如意輪観音像(一幅)、園城寺所蔵重要文化財絹本著色黄金剛童子像(一幅)、ケルン東洋美術館所蔵絹本著色黄金剛童子像(一楨)、三室戸寺所蔵絹本著色童子経曼荼羅(別名:乾闥婆像、一幅)とその比較資料としての台湾故宮博物院所蔵絹本著色千手千眼観世音菩薩像などに関して、平成30年度は上述の園城寺所蔵重要文化財絹本著色新羅明神像(一幅)のほか、重要文化財絹本著色不動明王二童子像(一幅・寺伝:青不動尊)、重要文化財絹本墨画金彩不動明王像(一幅)、絹本著色不動明王二童子像(一幅、寺伝:唐禅月大師筆)、不動明王像(一幅、通称走り不動尊)、重要文化財絹本著色両界曼荼羅(二幅)、重要文化財絹本著色尊勝曼荼羅(一幅)、重要文化財絹本著色多聞天像(一幅)などに関して、光画像計測法(4x5判カラー写真・35ミリ顕微写真・ブローニー判赤外線写真・四切透過X線写真など)を適宜応用した研究調査や、各種資料分析に基づく考察を鋭意進めた。 またフランスでは、パリ第7(ディドロ)大学において天台密教絵画に関する講演会、日本・東洋美術史研究者らとの共同研究などを両年度とも実施するとともに、ディドロ大学からは本成果をも基にした日本絵画史の教科書を、フランス語で作成する企画が発案された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度には、主に以下の作品等について引き続き調査を実施する。また国内での成果の発表に努めるとともに、フランス語文化圏における本研究成果発表実現のための取り組みを引き続き模索する。 重要文化財絹本著色水天像(一幅)、重要文化財絹本著色八大仏頂曼荼羅(一幅)、重要文化財絹本著色尊星王像(一幅)、重要文化財絹本著色天台大師像(一幅)、重要文化財絹本著色天台大師像(一幅)、重要文化財絹本著色仏涅槃図(一幅)、以上園城寺。 国宝三重塔初層四天柱金剛界三十二尊画像(四本)、国宝本堂須弥壇入り側柱(二本)、両界曼荼羅(二幅)、両界敷曼荼羅(二紙)、以上西明寺。
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Causes of Carryover |
西明寺関係絵画群の調査が、調査場所の都合等によって次年度に繰り延べとなったため。
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