2022 Fiscal Year Research-status Report
In Praise of Peasant Imagery: A Taste for Dutch Genre Painting on the Eighteenth-Century International Art Market
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17K02317
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
青野 純子 明治学院大学, 文学部, 教授 (20620462)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 絵画 / オランダ / 17世紀 / 18世紀 / 美術市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、17世紀オランダ絵画受容の黎明期である18世紀において、17世紀絵画がオランダ美術の典型としていかに規範化され蒐集され鑑賞されたのかを、18世紀の国際美術市場とコレクション形成の文脈で考察することである。なかでも「農民画」に焦点を当て、オランダ風俗画の受容のあり方を分析する。 本年度は8月末から9月にかけてオランダにおいて研究調査を実施した。アムステルダムの国立美術館、アムステルダム美術館、ハールレムのタイラルス美術館等において作品調査を行い、またハーグの国立美術史研究所、アムステルダム国立美術館の図書館等において作品・文献調査を行い、17世紀オランダの農民画、風俗画の評価の変遷とそれらを複製した18世紀の芸術(複製版画や複製素描)について考察を行なった。また3月には、明治学院大学にてシンポジウム「15-18世紀ネーデルラントとオランダ美術における複製/コピー」を開催し、自らも研究の成果の一部を発表し、ネーデルラント、オランダという地域に特有の芸術の創造とその評価の変遷において複製芸術が果たした役割をめぐり議論を行なった。自らの研究発表においては、農民画や風俗画など17世紀オランダ絵画が「17世紀美術の典型」として18世紀末に評価を高めていく過程を考察対象とし、18世紀末の複製素描がその評価を高めることに貢献した可能性を指摘した。このシンポジウムの講演内容は本学言語文化研究所の紀要(2023年度)に掲載の予定である。また、上記の18世紀末のオランダの複製素描に関しては研究成果の一部を論文にまとめ、論文集Kunst, Kennis and Kapitaal:Oude meesters op de Hollandse veilingmarkt 1670-1820に掲載することができた(詳細は「現在までの進捗状況」を参照)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究調査】2022年度は8月末から9月初めにかけてオランダにて研究調査を実施し、作品分析及び資料・文献収集を行い、研究を進展させることができた。 【シンポジウム開催・研究発表】上記の研究の過程において、18世紀における17世紀オランダ美術の「オランダらしさ」の創出とその評価の変遷について考察を進め、その考察ををもとに、シンポジウム「15-18世紀ネーデルラントとオランダ美術における複製/コピー」を企画、2023年3月4日に明治学院大学にて開催した。ここではネーデルラント、オランダという特定の地域において育まれた絵画芸術のイメージの普及・反復、評価の変遷、それに伴う社会的・政治的意味の付与において、複製芸術がいかなる役割を果たしたかを考えることで、それら美術に共通した特徴--例えば視覚世界の忠実な再現、精緻な描写など--がどのように創造され、称揚されたのか、分析する手がかりを得ることができた。それにより、本プロジェクトの研究成果をより広い地域と長い時間のスパンの中で捉える機会となった。 【出版物】論文集 F. Grijzenhout (ed.), Kunst, Kennis and Kapitaal:Oude meesters op de Hollandse veilingmarkt 1670-1820, Walburg Pers, 2022(『芸術・知識・資本:1670~1820年のオランダ競売市場における巨匠たち』)に、論文"Kunstenaars op de veiling: tussen zakelijkheid en bewondering"(「競売における画家たち:実利主義と芸術賞賛の間で」)を寄稿した。18世紀競売市場における17世紀オランダ絵画の人気と落札価格の高騰をめぐり、18世紀オランダの複製素描が果たした役割を論じた。
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Strategy for Future Research Activity |
【プロジェクトの総括】2020年度、2021年度には新型コロナウイルス感染症流行の社会的な影響により国外における調査が実施できず、スケジュールの点ではやや遅れが見られたが、2022年度にはオランダに渡航し、現地での研究調査を実施できたため、その遅れを大幅に取り戻すことができた。今後もこのペースで研究を進め、最終年度として研究プロジェクトの総括を行う予定である。
【シンポジウム報告書と論文の執筆・発表】2023年度には、2022年度に明治学院大学で開催したシンポジウム「15-18世紀ネーデルラントとオランダ美術における複製/コピー」の報告書を、同大学言語文化研究所紀要『言語文化』に掲載すべく準備を進める予定である。自身の講演内容を論文として執筆・発表するだけではなく、シンポジウムの内容を総括し、ネーデルラントとオランダ美術における複製芸術の役割について考察し、その報告文を執筆・掲載する予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度はオランダに渡航し、現地での研究調査を行うことができたため、旅費や調査のための費用の支出があった。しかし、新型コロナウイルス感染症流行の影響により、2020年度、2021年度と2年間にわたりオランダなど国外での作品調査・資料収集を行うことができず、調査に必要な支出が予定より少なかったこと、さらに2022年度の短期間でのオランダ滞在において、プロジェクト計画当初に予定していた調査を全て終えることができず、その一部を2023年度に持ち越したことなどが原因となり、次年度使用額が生じた。2023年には、プロジェクトの最終年度として研究成果をまとめていくための資料収集、また論文執筆・発表の際に必要となる芸術作品のデジタル画像の購入、出版の際の画像の複製費など、様々な支出が見込まれる。
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