2019 Fiscal Year Research-status Report
愛知県尾張地方の仏像に関する総合的研究―中央との関係と地域性―
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17K02330
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Research Institution | Tokai Gakuen University |
Principal Investigator |
高橋 佳代 (小野佳代) 東海学園大学, 人文学部, 教授 (60386563)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 尾張地方 / 仏像 / 黄檗様 / 定朝様 / 安阿弥様 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、愛知県の尾張地方に現存する中世の仏像について調査を実施し、それらの仏像の様式と構造の双方から考察を加え、さらに銘文や文献史料等の解読をとおして、愛知県の仏像にみられる地方的特色とは何か、また逆に中央からの影響の如何について解明することである。 平成31年(令和元)度は、尾張地方(主に江南・岩倉市とその周辺)の未調査の仏像を中心に視察・調査を実施した。調査寺院の宗派は天台宗、浄土宗、浄土真宗、曹洞宗、臨済宗、黄檗宗などで、調査した仏像の種類も多岐にわたる。調査した仏像は尾張地方で約40体。尾張地方と隣接する三河地方や岐阜の仏像も含めると、全部で75体ほどの像を調査した。なかには、平安時代の仏像も見出されたが、全体としては室町時代後期から江戸時代の像が多かったように思う。 今回調査した江戸時代の仏像の様式は実に様々で、①平安時代に活躍した仏師・定朝(-1057年没)の仏像に倣った定朝様の仏像のほか、②鎌倉時代前期を代表する仏師・快慶(生没年不詳)の阿弥陀如来立像に倣った安阿弥様の像、③江戸時代前期に日本に将来された中国明清の美術様式に倣った黄檗様の仏像、④室町時代の院派の仏像様式を継承する仏像などがみられた。 以上のように、江戸時代の仏像の様式は、実に多様な様相を呈していた。美術史の分野ではこの期の仏像を研究する者は少ないが、実際に調査してみると、中世の仏像と見紛うような優れた仏像も見出されたのは意外であった。また技法についても、中世のそれとは異なることが多いものの、決して一様ではなかった。とくに黄檗宗以外の宗派の寺院の本尊が黄檗様である事例がいくつか見出されたので、黄檗様の視点からも、尾張地域の中央と地方の問題を考えていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年(2019年)度は、江南市・岩倉市を中心に、春日井市、小牧市、さらに三河と岐阜エリアの一部でも調査を実施した。計75体の仏像を調査し、うち21体の仏像については報告書を作成した。調査した平安時代と室町時代の仏像については今後、市の指定にする方向で検討中である。現在、江戸時代の仏像も対象に、尾張地方の仏像の中央と地方の問題を考察している。現在の調査研究の状況は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
この三年間で、春日井市、犬山市、江南市、岩倉市、小牧市とその周辺エリアの仏像を中心に調査してきた。来年度、令和二年(2020年)度は一宮市周辺の仏像調査を検討中である。しかし5月現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、不要不急の外出を控えねばならず、仏像調査もできない状況にある。したがって、予定どおりに調査研究を遂行できるか不安な点も多い。 今後の予定としては、コロナウイルスの流行が落ち着いた後、速やかに調査を開始する。現時点では一宮市周辺エリアの調査を予定しているが、必ずしも限定されることなく、尾張地域の文化・歴史と関連する三河・岐阜エリアまで調査対象としたい。 実際に調査をすすめてみると、平安・鎌倉期の仏像は少なく(とくに鎌倉時代が少ない)、室町時代から江戸時代の仏像が多い。本研究ではこれまで調査されてこなかった未調査の仏像を対象としていることから、新発見は少ないだろうが、今後も地道な調査活動を続けていきたい。こうした活動をとおして、尾張の仏像にみられる“中央と地方”の問題を考えてみたい。
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Causes of Carryover |
今年の仏像調査では、予定していた人件費や謝金の支払いがほとんどなかったこと、また県内出張が多く、県外出張が予定より少なかったことが残額の生じた理由である。 残額の使用計画としては、県外の調査や調査協力者への謝金等に当てたいと考えている。
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