2021 Fiscal Year Research-status Report
時の視覚化としての星曼荼羅:九曜配置における数理天文学的解釈とホロスコープ占星術
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17K02332
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
松浦 清 大阪工業大学, 工学部, 教授 (70192333)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 星曼荼羅 / 北斗曼荼羅 / ホロスコープ占星術 / 九曜 / 東密 / 台密 / 七曜攘災決 / 大日経疏 |
Outline of Annual Research Achievements |
密教の北斗法に用いる星曼荼羅は方形と円形に大別されるが、後者について、その構図の特徴をホロスコープ占星術との関わりから捉え直そうとするのが本研究の主題であり、特に、配置の意味が不明な九曜を取り上げ、配置構成の原理を考察することが研究の中心である。この研究は、方形を東密系、円形を台密系として外形により単純に二分する従来の分類に対して、その分類の正統性の有無を検証することに繋がり、また、その分類が正しい場合、両者の差異の本質を明確化することに直結するとみられる。 令和3年度は、令和2年度に引き続き、日蝕あるいは月蝕を引き起こすと一般に信じられてきた二隠星について、重点的に考察した。九曜はそもそも日月五惑星の七曜に羅コウ(目偏+侯)と計都を加えた九つの星辰を差すが、七曜が実際の天体であるのに対して、この二星は現実には見えない隠星と考えられてきた。それらは太陽と月を食する天空の魔物ドラゴンの頭と尾に相当するとの解釈が密教経典の『七曜攘災決』に記されている。これは、日蝕と月蝕が黄道と白道の交点において起こることを反映すると考えられる。また、二隠星のうち前者は蝕星であるが、後者は彗星であるとの説が密教経典の『大日経疏』に記されている。前者の公転周期を『七曜攘災決』が十八年とするのは、黄道と白道との交点の現実の移動を反映するが、後者の公転周期を『七曜攘災決』が九年とするのは、その根拠が不明であり、これを巡っては、月の近地点あるいは遠地点との解釈もあり、結論をみていない。 また、二隠星と関連する七曜の配置については、多くの経典が異なった列次を記しており、それらは、日月火水木金土、日月木火土金水、不定と三大別されるが、その系統は不明である。円形式の場合、九曜配置の差異はホロスコープ占星術の反映であるとの解釈が想定されるため、その配置の意味を引き続き考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
星曼荼羅の構図について、その構成要素の配置原理を解明するためには、経典を含む文献理解に留まらず、天文学(古天文学を含む)の研究成果も参照しながら、美術史と天文学との学問領域を超えた学際的視野が必要である。その考察において、作品の実地調査が研究の前提となることはいうまでもない。 令和3年度は新型コロナウィルスの感染拡大が終息せず、当初調査を予定していた寺院や博物館施設などへの調査については、所属機関より出張の禁止措置が解除されなかったため、研究期間を通じて実地調査を全く実現できなかった。手元にある限られた写真資料だけでは、作品の細部に関する表現を解明することは困難であり、当初の研究課題については、その解明に関して進展を期待することが困難となった。 そのため、研究方針を転換し、星曼荼羅の構成要素の1つである月に焦点を当て、手元の資料で考察できる新たな課題を設定し、月を描く絵画の時間表現について考察することとした。月を描く絵画作品における時間表現の考察は、星曼荼羅における時間表現の解明に接続する重要な課題である。これについは論文を執筆し、科研の研究成果として公開した。
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Strategy for Future Research Activity |
円形式の星曼荼羅における九曜配置の研究を遂行するうえで、直接の調査が不可欠である重要作品のうち、未だ調査許可が得られていない作品については、コロナ禍の状況を見ながら、調査許可が得られるよう今後も粘り強く所蔵寺院と交渉を重ねる。これに関しては、学術研究の立場とは次元の異なる宗教上の問題が横たわっているため、容易に乗り越えられる問題ではないが、慎重に交渉を継続する。 天文学ならびに古天文学の援用により、星曼荼羅とホロスコープ占星術との関連性を解明することが本研究の中心課題であるため、現実の天体の運行観察も含めて、天文関連画像の収集を継続する。 本来の研究課題である円形星曼荼羅における九曜配置の意味とホロスコープ占星術との関連性を明確化させる。一方、コロナ禍の推移と作品調査の許諾の進展を睨み合わせながら、月を描く絵画の時間表現についても研究を進める。研究成果は、主宰する研究会において口頭発表をおこない、また、論文として公開する。
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Causes of Carryover |
延長:2020年3月18日、延長:2021年3月19日、延長:2022年3月15日 (1)次年度使用額が生じた理由:令和3年度は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、所属機関による出張自粛要請がしばらく解除されず、研究課題に関連する作品の現地調査を実施できなかったため。 (2)次年度使用計画:令和4年度は、令和3年度に実施できなかった作品の現地調査を実施するため、出張に伴う経費を支出する。
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Research Products
(3 results)