2017 Fiscal Year Research-status Report
中国宋代天目茶碗の総合的調査研究―新出土資料と科学分析を踏まえた伝世品の再検討
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17K02341
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Research Institution | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術 |
Principal Investigator |
小林 仁 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術, 大阪市立東洋陶磁美術館, 学芸課長代理 (00373522)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中国陶磁史 / 天目 / 曜変 / 油滴 / 宋代 / 南宋 / 杭州 / 科学分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は新発見の個人蔵の曜変天目片(伝杭州出土、未発表)の初歩的調査(採寸、写真撮影、顕微観察等)を研究協力者らと行うことができたことがまず大きな収穫であった。南宋の都のあった杭州からは2009年に初めて曜変天目が発見されて大きな話題となり、筆者も早くに調査を行い紹介したことがある。今回の発見は中国における曜変天目の出土の第二例目となるもので、曜変天目の歴史的位置づけを考える上でも、またその技術の謎を考える上でも極めて重要な意義をもった資料である。当該資料については、次年度以降に国内外で正式に紹介するとともに、台北の國立故宮博物院の協力を得て、科学分析を行い、曜変天目の光彩や斑紋のメカニズムの解明を目指す予定である。 一方、国内調査では根津美術館所蔵の加賀前田家伝来の重要美術品「曜変天目(油滴天目)」をはじめとした伝世天目作品の調査を実施した。かつて「曜変天目」と見なされたこともある重要美術品「曜変天目(油滴天目)」については、その特徴の詳細な観察や顕微観察などによって新たな発見や知見も得られた。とりわけ、南宋宮廷で使われたと考えられる杭州出土の天目には露胎部を漆で覆うという特殊な方法が見られるが、この伝世品にもかすかにそうした漆の痕跡が確認できたことは、その来歴を考える上で重要な発見といえる。また、中国河南地区の北方天目についても調査を行い、日本にも少なからず伝世する北方天目の産地やその流通過程を考える参考となった。 本年の調査に際しては、多くの研究協力者や現地研究者の協力を得るとともに、活発な意見交換を行い、科学分析を含めた今後の研究方法にとって有意義な情報や知見を得ることができた。 なお、研究成果の一部は中国や日本の学会や講演会などにおいて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新発見かつ未公表の新出土資料の調査を行うとともに、今後の科学分析を踏まえた研究の目途がたったことことは本研究にとって極めて大きな収穫となった。一方、日本などの伝世品の調査も計画的に進めており、新出土資料や科学分析を踏まえた伝世品の再検討という今回の研究目的にたいして着実に調査成果を上げている。また、研究成果については、すでにその一部を中国や日本の学会や講演会などで公表しており、次年度以降もさらに様々な形で公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
新発見の個人蔵の曜変天目片(未発表)は、本研究においても極めて重要な資料となるものであり、すでに所蔵者の了承も得ており、今後、台北の國立故宮博物院の協力を得ながら、様々な科学分析を行い、曜変の光彩や斑紋のメカニズムの謎に迫りたい。筆者は以前、藤田美術館所蔵の国宝の曜変天目の科学分析調査に関与したこともあり、その分析成果も併せることで、本研究は曜変天目の研究において画期的な研究成果をあげることができると期待できる。 さらに、南宋の都のあった杭州から出土した様々な天目資料は、日本の伝世品だけでは分からない南宋宮廷の天目の様相を考える上で重要な資料といえる。引き続き、杭州出土の天目の調査を進めるとともに、その成果を踏まえ、日本伝世品及び海外所蔵の伝世品(多くは日本の伝世品の可能性が高い)について新たな視点から調査研究を進めていきたい。また、建窯製品以外の吉州窯な北方天目などの日本伝世品や関連の窯址、遺跡出土資料についても同時に調査を行いながら、産地や年代、さらにはその流通過程、日本における受容の問題などについて、科学分析も踏まえ、多角的に考えていきたい。科学分析や制作技法に関して分析方面の研究者や陶芸家などの多方面の研究協力者の協力を得ながら効率的に進めていく予定である。 なお、研究成果については、すでにその一部を中国や日本の学会や講演会などで公表しており、次年度以降もさらに様々な形で公表する予定である。
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Causes of Carryover |
物品費の一部が翌年度執行となったため
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