2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02342
|
Research Institution | Nara National Museum |
Principal Investigator |
内藤 栄 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, 学芸部, 部長 (40290928)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 綴織 / 織成仏 / 刺繍 / 繍仏 / 髪繍 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績として次の4項目を挙げることができる。 1、作品の調査。・・・ 調査の行き先は28箇所にのぼり、調査作品は73点を数えた。調査は東京、京都の国立博物館の研究者、宮内庁正倉院事務所の研究者のほか、織物や刺繍の技術者を招待し、技法面についてのアドバイスも得た。 2、光学調査・・・染料の調査を行うため宮内庁正倉院事務所に可視分光分析を依頼し、當麻寺所蔵の国宝・綴織當麻曼荼羅を調査した。経年の変化によって褪色が著しいが、調査の結果藍が検出されるなど、新資料を得ることができた。また、奈良国立博物館の写真技師による赤外線写真、高精細画像の撮影も行った。赤外線写真からは刺繍の下絵を知ることができ、また高精細画像は顕微鏡写真と同等の精度を持つため、刺繍糸における色糸の配合についてや、綴織の技法調査に役立てることができた。なお、この成果を川島織物セルコンに提供し、綴織當麻曼荼羅の部分復元模造の製作を行った。 3、技術に関する調査・・・綴織と刺繍に関する技法を学ぶため、綴織の技術者がいる川島織物セルコンと、刺繍工芸家の樹田紅陽氏の工房に通い、技術について学んだ。現在、刺繍見本一覧を作成中であり、古代から近世に至る主要な技法を網羅することを目指している。 4、関連資料の研究・・・日本の文献を中心に、染織技法に関する史料を探し、年表を作成した。今後、中国、朝鮮半島にまで範囲を広げる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
調査は概ね順調に進んでおり、国内の調査対象は7割程度終了した。調書と写真資料の収集も順調である。また、技法に関する研究もはかどり、調査において大きな成果を発揮している。調査過程において、新たな調査対象が発見されることも多いが、一方で所蔵不明の作品もあり、今後その探求が必要である。 綴織の仏像(織成仏)や刺繍の仏像(繍仏)に関する文献資料の収集も順調であり、過去の研究書、研究論文の収集も順調である。これらをもとに年表を作成し、概ね日本における織成仏、刺繍仏の歴史を押さえることが可能の段階に来ている。概説を書くことのできる段階まで調査が進展していると思う。 調査の過程で、韓国での調査の重要性が浮彫となってきた。飛鳥時代から奈良時代の織成仏と刺繍仏は百済や新羅からの影響が強いことがわかってきた。当該年度は韓国における調査場所の候補を探索することを行い、公州、扶余など数箇所を特定した。実際の調査は次年度以降に回す予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度で調査を行うことのできなかった、日本国内の調査を行う予定である。特に東京以外の関東地方が未調査であり、千葉と栃木を中心に調査を行いたい。また、東北地方と三重県も同様に未調査であり、今後調査を行いたいと考えている。国外では、イギリスと中国、韓国を候補としているが、最初に調査すべき場所は韓国であり、百済関連の地域を調査したいと考えている。 光学調査による染料調査は、綴織當麻曼荼羅を行ったに過ぎず、国宝・天寿国刺繍帳(中宮寺)、国宝・刺刺繍釈迦如来説法図(奈良国立博物館)を早めに調査したいと考えている。平安時代以降の作品についても順次光学調査を行う予定である。 調査成果をまとめる作業にも取りかかりたいと考えている。年表の充実、論考の執筆を行いたいと考えている。また、学会発表、講演会等で当該研究に関わる内容に触れることも考えている。 調査と先行研究の検討を通し、日本の織成仏と刺繍仏に関する研究では年代判定に大きな課題があることが判明した。研究者が少ない分野であるため、一度発表された説が再検討されずに継承されている傾向がある。彫刻史や絵画史では新説が日々提出され、時代判定が更新されており、その成果を全く考慮されていないきらいがある。この作業は個々の作品を対象として論ずる必要があり、長い時間がかかるが、学会に問題提起として発表してゆくことを心がけたい。
|
Causes of Carryover |
前年度に予定していた国外調査と一部残っている国内調査を次年度に実施するためである。とりわけ、国外にはイギリスと中国があり、予算的に多きなウエイトを占めている。
|