2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02344
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Research Institution | Kyushu Historical Museum |
Principal Investigator |
井形 進 九州歴史資料館, 学芸調査室, 研究員(移行) (60543684)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薩摩塔の基準作 / 水元神社の薩摩塔 / 宗像の渡来文物 / 高麗仏の再検討 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度から29年度科学研究補助金(基盤研究C)「九州に偏在する中国系彫刻についての基礎的研究」(課題番号26370155)で設定した、中国渡来石造物である薩摩塔と宋風獅子の基準的作例を足掛かりとしながら、さらに基準的作例を導くことに努めてきた。これからはそのような作業を継続しつつ、それらの作例を網の目のように結び、背後にある世界を浮かび上がらせるべく、考察を深化させてゆかねばならないと考えている。基準的作例設定のことについては、薩摩塔が初めて文化財の世界に登場した薩摩では、未だそれが設定できていなかったため、あらためて薩摩塔最大の作例であり、13世紀後半から14世紀初頭の作だと想定してきた、克明な尊像等の彫刻表現をもった南九州市川辺の水元神社の作例についてまとめ、『九州歴史資料館研究論集』に論考を掲載した。また、前年度に検討を行っていた箱崎周辺に並んで、大陸渡来文物が目立つ宗像について調査を進め、それぞれの作例の位置づけを行い、その中でこちらは、箱崎や博多とは異なり、宗像大社側、つまり日本側が主体的に渡来文物に関わっていることが、その後の伝来の違いに結びついている可能性も指摘した。宗像には、安昌院に高麗時代の菩薩形坐像が安置されており、これは従来14世紀の作だとされていたが、高麗時代前期にさかのぼる可能性を指摘し、またここで、やはり朝鮮半島への古くからの海路も、中国への海路と共に考察する必要があることを再認識した。さらには調査研究の基盤を広げるべく、九州北部で活動した入宋僧の神子栄尊周辺における造形活動の検討や、京都泉涌寺や奈良東大寺周辺の中国系石造物の調査、中国浙江省の杭州や寧波での、石造物を中心とした宋代文物の調査も行った。日韓関係やパンデミックの影響を受けて、実査には遅れがあるが、研究の核になっている薩摩塔については、基礎的な研究を一段落させる目途がついてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の成果は積みあがっており、研究の主対象である薩摩塔については、ここ一年程度以内で今後の研究の基盤となる成果をまとめることができるだろう、という見通しも得られるに至っている。しかし一方で実査は遅れている。朝鮮半島における調査の遅れは、そもそもは日韓関係によるものであった。ただし、その後に新型コロナウイルスが広がりを見せ、ついにはパンデミックとなったことに大きく影響されて、国内外の調査研究全体が大きく遅延することになった。当初予定していた朝鮮半島の仏像の再編年は、現段階ではかなり困難なものとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は引き続き国内外の調査は抑制せざるを得ない状況が続くであろうから、これまでの調査研究の成果をあらためて検討して、まずは薩摩塔と宋風獅子を中心とする、九州に偏在する中国渡来、または中国系彫刻についての、今後の研究の基盤たりうる成果を、しっかりとまとめるべく考えている。朝鮮半島の仏像の編年については、新たに体系的に行うことは困難であることが予想されるため、個別の作例の再検討を進めることにまずは努めたい。なお、パンデミック終息の暁には、精力的に実査を進めてゆく所存である。
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Causes of Carryover |
現在の日韓関係にかかり、大韓民国における調査が不調であったところに、新型コロナウイルスの広がりによって、さらに調査活動が抑えられていたことに加え、ついにパンデミックに至って国内外における調査が止まってしまったことが、次年度使用額が生じた最も大きな理由である。このことについては、すぐに全面的な調査再開に至れるとは思われないため、これまでの調査研究の成果に基づき、とくに薩摩塔を中心とした中国渡来、または中国系彫刻の研究に一段落をつけることに、まずは集中したい。そのような研究を行うための史資料の整備に努めながら研究を進め、パンデミック終息の暁には精力的に実査を進めて、充実した報告書を作成することで、今年度中に助成金を使用する計画である。
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