2018 Fiscal Year Research-status Report
破壊的な仕組みを備えた現代社会で「場所」を生きる意味の実践へと結ぶ美術表現の研究
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17K02345
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
坂巻 正美 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (60292067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アートアクション / 里山・里海 / 伝統的生業 / 再生するイメージ / 場所と人との創造的な相互関係 / 互酬性 / 芸術表現の社会性 / 社会彫刻 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の実地調査は、過疎地域で伝統的風習が衰退していく現状のなか、その伝統的風習の知識や技術を美術表現として新たに再生するイメージを得る目的で行っている。里山・里海交流について伝統的生業を対象に、千葉県房総半島や石川県奥能登地域及び鹿児島県奄美大島にて実地調査を行った。 作品制作では「奥能登国際芸術祭2017」で発表した作品の継続的展開として地域の人々と協同で米作りを行い、場所の特質を活かす芸術実践を展開した。この場所は10戸の老人中心世帯の山間集落だ。山と海の交流を背景とした伝統的生業の中で継承されてきた知識や技術を現代社会に生きる新たな方法として再生する試みである。具体的には、作品空間の一部である「ボラ待ち櫓」が立つ耕作放棄地で米を作り(「北國新聞」2018年5月・9月)、約40年前の水田風景を再生し、作品と重ねて見せていくアートアクションを継続中だ。若者が老人に教えを請い、集落協同で行う昔ながらの田植えから稲刈り、収穫際までの実践である。 前年度の研究成果「奥能登国際芸術祭2017」の発表作品では、「鯨談義」(里山・里海の伝統的生業従事者を中心とした車座談義)のアートアクション及び作品材料である里海集落の民俗資料(ボラ待ち櫓・木造船・鯨頭骨)が、その伝統的生業の知識や技術と共に海から山の集落に贈与された。今回の試みは、山間集落で収穫した山の幸を海辺の集落へと返礼するアートアクションとなった。その後、里海集落からは、さらなる返礼が届くなど、海と山の集落間で嘗ての伝統的風習・互酬の再生である。正に途絶えていた風習が、芸術の手法により新たな形で実践され、互酬性を引用しながら現代の芸術表現の社会性を探る試みとなった。場所の特質を活用する芸術の実践であり、現代のお金の文化に対抗して生きる意味を獲得していく為に、場所と人との創造的な相互関係を築くイメージを探ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当該年度の研究計画に記載した、場所や人との関係性から作品を構想していくことは、「研究実績の概要」欄に記載のとおり、研究対象地域の人々と耕作放棄地の環境再生の協同作業を実践し、伝統的生業や生活風習のなかで行われてきた互酬の機能を作品の構造に取り込むことを試みるなど、おおむね計画に沿って実施できている。また、能登半島の先端部や千葉県房総半島の先端部、奄美大島の限界集落など、辺境の過疎地域で継承されてきた漁撈を中心とする伝統的生活文化について実地調査と研究協力者への聞き取りを行ってきた。 しかし、調査地での収集資料については、関連する専門分野との学際的議論が深められないまま、関連の研究事例等を参考に検証することが遅れている。そのため研究全体の進み方がアンバランスな状況にある。進まない理由としては、計画当初には、予測できない大学運営業務や学生指導対応が起こったため、研究協力者との日程調整がつかず、調査に必要な研究時間として決めたエフォート率を確保できない状況となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
調査地での資料収集及び関連する専門分野との学際的議論を含む研究について、当初計画より進んでいない状況を改善していく。しかし、上記の理由欄記載のとおり、進捗状況の遅れを取り戻せない場合には、研究期間も後期に入るため、研究期間延長を検討していく。 石川県奥能登地域での作品制作においては、地元集落の人々との協同で制作を進めており、おおむね計画通りに進んでいる。しかし、自ら生活し研究の拠点でもある北海道と関連した作品構想へと結ぶ調査が不足している。今後は、遅れている道内実地調査の機会を増やしていく。古からこの場所の伝統的な生活として継承されてきた狩猟・漁撈・採集・交易等、アイヌ文化を中心とする知識や技術の中に見られる思想についても、これまで通り実地調査を進めていく。 また、山間の過疎地や離島など、いわゆる辺境地を生きる視点からしか眺められない現代社会の景色を当該研究で制作する作品の全体像へと繋いでいく。そのためには、これまで実地調査してきた北海道・東北のみならず、日本の南端辺境地域である奄美・琉球列島などでの実地調査も継続していく。人と自然の関係を深く生活文化のなかで伝承してきた場所では、現代のお金の文化に対して極性のやり方を備えた漁撈・狩猟・採集生活等を主体とする思想を持って生きる人々がいる。そのような「辺境から眺める」(テッサ・モーリス・鈴木 著)ことで、現代社会を生きていく方法について、そのイメージを作品として再生していく構想へと繋げる研究を推進させていく。
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Causes of Carryover |
研究計画に記載した場所や人との関係性から芸術実践を地域との共同作業で構想していくことは、研究実績の概要欄に記載のとおり、おおむね実施できている。しかし、調査地での収集資料については、関連する専門分野との学際的議論が深められないまま、様々な研究事例等を参考に検証することが進んでいない。そのため作品の構想が広げられない状況にある。進まない理由としては、当初計画では、予測できない大学運営業務や学生指導対応に追われ、当該研究に必要なエフォート率を確保できない状況となった。当初計画より進んでいない状況を改善していくためには、研究費の当該年度未使用額分を翌年度分と合わせて使用しなければならない。しかし、上記理由のとおり、必要なエフォート率を確保できない状況が改善されず、研究計画の遅れを取り戻せない状況が続く場合には、研究期間延長も検討していく。 石川県奥能登地域での作品制作研究においては、地元の協力者と協同で制作を進めていく目処がつき、計画通りに進んでいる。しかし、自ら生活し研究の拠点でもある北海道と関連した作品構想へと結ぶ調査が不足している。今後は、道内他、予定の辺境地への実地調査機会を増やしていきながら、その場所の伝統的な生活として継承されてきた伝統的生活・風習についての知識や技術についても、現代でどのような生き方のイメージとして作品化できるのかをあわせて研究を進めていく計画である。
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