2019 Fiscal Year Research-status Report
破壊的な仕組みを備えた現代社会で「場所」を生きる意味の実践へと結ぶ美術表現の研究
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17K02345
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
坂巻 正美 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (60292067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アートアクション / 狩猟文化 / 交易 / 伝統的生業 / 場所と人との創造的な相互関係 / リレーショナルアート |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究計画に記載のとおり、本年度も、所謂、辺境地・過疎地で継承されてきた伝統的生活が衰退していく現状と美術表現を重ねた実践を作品として制作研究及び実地調査を継続してきた。研究前半では、北海道内の調査として、函館を中心にその周辺地域で行われていた「はこだてトリエンナーレ2019」の木古内会場で発表する作家・藤原千也作品と道南地域の寺社に祀られている円空仏との関係について実地調査した。藤原論文「円空と『木なり』」(北海道芸術学会)でも取り扱われている道南地域の円空仏は、その祀り方や儀礼と共に、場所の歴史・民俗との関連で藤原の作品表現にも大きな影響を与えている。当該研究目的でもある地域の伝統文化再生の現代的意義について美術表現を重ねる実践について調査した。また、千葉県房総半島の古式捕鯨から現在へと歴史ある場所での「第十回・和田浦くじらゼミ」へも去年から参加し、現代の狩猟文化と交易の知識を得ることができた。 継続中の作品制作研究では、「奥能登国際芸術祭2017」で発表した作品の展開として、本年度も地域の人々と協同で米作りを行い、場所の特質を活かす芸術実践ができた。この場所は10戸の老人中心世帯の山間集落だが、伝統的生業の中で継承されてきた知識や技術を現代社会に生きる新たな方法として再生する試みとして、作品空間の一部である耕作放棄地で餅米を作り(「北國新聞」2019年5月・9月)、水田再生のアートアクションを継続している。「形のありか-坂巻正美《鯨談義》とリレーショナルアート」(形の文化会・形の文化研究Vol.12 2018 一條和彦)により、この作品の解釈が詳細に述べられている。 今年度後半の研究調査では、沖縄在住の研究協力者を訪問し、インドネシア・レンバタ島ラマレラ集落での伝統的鯨漁と山の農民との交易について実地調査を計画したが、コロナ禍にて訪問延期となり、研究も中断している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当該年度の研究計画に記載した、場所や人との関係性から作品を構想していくことは、「研究実績の概要」欄に記載のとおり、昨年度からも継続的に研究対象地域の人々と耕作放棄地の環境再生の協同作業を実践し、伝統的生業や生活風習のなかで行われてきた互酬の機能を作品の構造に取り込むことを試みるなど、おおむね計画に沿って実施できている。また、能登半島の先端部や千葉県房総半島の先端部、離島の限界集落など、所謂、辺境の過疎地域で継承されてきた漁撈を中心とする伝統的生活文化について実地調査と研究協力者への聞き取りを行ってきた。しかし、調査地での収集資料については、関連する専門分野との学際的議論が深められないまま、関連の研究事例等を参考に検証することが遅れている。そのため研究全体の進み方がアンバランスな状況にある。進まない理由としては、計画当初には予測できない新型コロナウィルスへの危機対応をはじめ、本年度前半でも大学業務への計画にない対応が起こったため、研究協力者との日程調整がつかず、調査に必要な研究時間として決めたエフォート率を確保できない状況となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス危機対応期間については、予測不可能だが、調査地での資料収集及び関連する専門分野との学際的議論を含む研究について、当初計画より進んでいない状況を改善していく。しかし、上記の理由欄記載のとおり、進捗状況の遅れを取り戻せない場合には、研究期間も後期に入るため、研究期間延長を検討していく。石川県奥能登地域での作品制作においては、地元集落の人々との協同で制作を進めており、おおむね計画通りに進んできたが、コロナ禍にて現地入りできない状況が続いている。また、研究の拠点でもある北海道と関連した作品構想へと結ぶ調査が不足しており、今後は、遅れている道内実地調査の機会を増やしていく。古からこの場所の伝統的な生活として継承されてきた狩猟・漁撈・採集・交易等、アイヌ文化を中心とする知識や技術の中に見られる思想についても、これまで通り実地調査を進めていく。また、山間の過疎地や離島など、いわゆる辺境地を生きる視点からしか眺められない現代社会の景色を当該研究で制作する作品の全体像へと繋いでいく。そのためには、これまで実地調査してきた北海道・東北、日本の南端辺境地域である琉球列島のみならず、海外(インドネシア)での海洋先住民の実地調査も日本の伝統漁撈文化との関連について比較する上で実地調査予定(昨年度末から延期)である。人と自然の関係を深く生活文化のなかで伝承してきた場所では、現代のお金の文化に対抗する生き方を備えた生活(漁撈・狩猟・採集等)の技術や知恵を活用して生きる人々がいる。そのような「辺境から眺める」(テッサ・モーリス・鈴木 著)ことで、現代社会を生きていく方法について、そのイメージを作品として再生していく構想へと繋げる研究を推進させていく。
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Causes of Carryover |
実地調査旅費として年度末に計画していた額が、新型コロナウィルス危機対応にて旅行が延期となり、この様な使用状況が生じている。この状況の収束は、予測できないが、計画では今年度末に予定していた実地調査地への旅費として使用する予定である。
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