2020 Fiscal Year Research-status Report
破壊的な仕組みを備えた現代社会で「場所」を生きる意味の実践へと結ぶ美術表現の研究
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17K02345
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
坂巻 正美 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (60292067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 現代美術 / サイトスペシフィックアート / リレーショナルアート / インスタレーション / 芸術実践 / アートアクション / 再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、研究最終年度の研究調査として、インドネシア・レンバタ島ラマレラ集落での伝統的鯨漁と山の農民との交易について実地調査を計画したが、コロナ禍の入国禁止措置にて訪問の機会を失った。しかし、研究拠点を中心に、コロナ禍ではあるが、できる範囲を模索しながら、当該研究目的に添って所謂、辺境地・過疎地で継承されてきた伝統的生活が衰退していく現状と美術表現を重ねた制作研究及び実地調査を継続し、その実践として作品発表を行うことができた。 その成果は、これまでの研究をもとに再構成した作品として、次の通り新作発表の機会を得たことによる。札幌大通地下ギャラリー500m美術館「反骨の創造性」展(主催:札幌市、企画・運営:CAI現代美術研究所/一般社団法人PROJECTA、会期:令和2年5月~11月→令和3年2月末まで会期延長)への招聘である。作品【けはいをきくこと・・・北方圏における森の思想シリーズ「羆(シシ)になること」】(横2400cm×高さ200cm×奥行き60cm)のインスタレーションとして札幌の地下通路歩行空間にて約9ヶ月間の長期展示発表を行うことができた。 また、当該研究年度後半の3月には、地域の歴史や伝統文化再生の現代的意義について美術表現を重ねる実践へ向け、石川県珠洲市にて実地調査を行った。この地域では、継続中の作品制作研究として地域の人々と協同で場所の特質を活かす芸術実践の計画が進行中だ。この場所は、老人中心世帯の山間・過疎地域だ。伝統的生業の中で継承されてきた知識や技術を現代社会で生きる新たな方法として再生する試みとして耕作放棄地で米を作り水田再生のアートアクションを継続してきたが、この芸術実践もコロナ禍で中断した。今回の調査では、昔を知る地域の方々と荒れ果てた山中に広がる耕作放棄地や林業の古道を探索し、コロナ禍でも可能な新たな作品構想へとつなぐ聞き取りを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究期間の最終年度であったが、現在までの進捗状況は、上欄【研究実績の概要】のとおりでありであり、コロナ禍の危機対応状況が続き、研究計画の遅れを取り戻すことができず、年度末に研究期間延長申請を行った。当初計画では、作品発表を行い、同時に公開シンポジウムを開催する予定だったが、断念せざるを得ない状況となっている。 研究対象地域のひとつである石川県奥能登地域での作品制作においては、作品空間の一部でもある耕作放棄地の水田再生を通じて地元の人々との協同で昨年度も制作を進めてきた。しかし、コロナ禍にて当該年度は現地入りできない状況が続き、研究が中断している。 当該研究の実践は、地域の人々と社会彫刻の概念を重ねたSite-specific Artとしての作品制作を伴うものでもある。制作を通じ、場所を生き直すための試みとしての実践が進行中だった。嘗てこの場所を生きる意味として伝統的な生活術が実感と共に経験されてきたことが、現代に使えるような形へと再生できるか。または、全く新しい生き方のモデルをこの場所に作品表現を通じたイメージとして創造することができるのか。得られた成果をWeb上に広く公開する研究期間終了年度であったが、翌年度へと研究期間延長することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス危機対応期間の終息については予測不可能だが、状況の許す範囲で調査地での資料収集及び関連する専門分野との学際的議論を含む研究について、当初計画より進んでいない状況を改善していきたい。しかし、上記の理由欄記載のとおり、進捗状況の遅れを取り戻すことは、コロナ禍の困難状況が続いており見通しが立てにくい。研究延長期間に入り、当初研究目的達成を目指し、得られる成果を最大限にする方法を状況に応じて検討していく。 研究地域のひとつである石川県奥能登地域での作品制作においては、地元の人々との協同で制作を進めてきたが、コロナ禍にて現地入りできない状況が続いている。この地域は、長年にわたる研究調査地であり、親しい人間関係も結ばれ、コロナ禍、この研究目的を実施していくためには、計画してきた調査と実践の場所をこの地域に絞り込むとについて、地元の人たちの協力が期待できる。いわゆる辺境地を生きる視点からこそ眺められる現代社会の景色を当該研究で制作する作品の全体像へと繋いでいく成果も期待できる場所だ。 コロナ禍の危機対応状況次第だが、研究終了期間も迫るため、今後は他の地域との実地調査による比較を見送り、長年通ってきた奥能登地域に絞って制作研究を実践していく方策とする。この地域も、人と自然の関係を深く生活文化のなかで伝承してきた場所だ。現代のお金の文化に対抗する生き方を備えた伝統的な生活術や知恵を活用して生きる人々が居る。疫病禍を乗り切る地域の歴史や伝承も地域再生の知恵のひとつとして、この研究実践で発揮される可能性もある。コロナ禍の状況ではあるが、できるかぎりにおいて調査・作品制作研究・芸術表現の実践場所を特定していく方策としたい。この様に現代社会を生きていく新たな方法について、伝統的な生活術調査と共に、そのイメージを作品として実践的に現代へと再生する研究を推進させていく方策を進めたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の危機対応状況にて計画していた調査及び研究実践地域への渡航ができず、研究が中断させられたため、研究期間最終年度を次年度へ延長申請した。延長申請が認められ、次年度使用は、研究中断事態が生じない限り、【現在までの進捗状況】及び【今後の研究の推進方策】で記載した通りの研究計画の見直しにより支出していく使用計画となる。
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